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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン7

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第110章 声なき街の秩序


——2027年11月16日 午前9時10分。東京都・新宿中央公園。


通信は途絶え、指示はどこからも届かない。

瓦礫の間で泣き叫ぶ声と、遠くで燃え続けるビルの炎だけが響いていた。


だがその混乱のただ中で、一人の消防隊長が声を張り上げた。

「もう上からの指示はない! ここにいる全員で動くぞ!」


彼はすぐそばの警察官、自衛官、そしてボランティアの市民を手招きし、地図を地面に広げた。

「この公園を中心に救護所をまとめる! 水は西側の給水車に集中。避難者は体育館へ誘導する!」


警察官が頷き、声を上げる。

「群衆の整理は俺たちがやる! 暴れた奴は止める!」


自衛官はすぐに部下を呼び寄せ、残っていたトラックを横付けした。

「資材と医薬品を積め! もう誰に許可を求める時間はない!」


——代々木。


炊き出しをしていた自治会の老人たちが、手持ちの鍋と米を差し出した。

「どうせ冷蔵庫も死んでる。ここで煮て分けりゃいいだろ。」


若いボランティアがうなずき、即席の炊き出し場が作られる。

煙が上がると、人々の視線がそこに集まり、混乱していた群衆に列が生まれた。


「順番だ、押すな!」

叫んだのは中学生の少年だった。

小さな声が群衆を落ち着かせ、列は少しずつ整っていった。


——霞ヶ関。


救護テントでは、通信不能に苛立つ医師たちが議論を断ち切った。

「もう決まりを待つな! 搬送先は現場で決める! 軽症者は歩ける範囲で分散、重症はここで処置する!」


看護師たちが走り、警察官が近隣の学校を開放する。

黒板を倒し、机を並べ、そこが新たな臨時病棟となった。


——新宿駅西口。


ホームに取り残された群衆を、駅員と自衛官が必死に整理する。

「女性と子どもを先に地上へ! 残りは待て!」

怒号と不満が飛び交う中、誰かが声を張った。

「順番を守れば必ず全員出られる! 信じろ!」


その声に、少しずつ足並みが揃い始めた。

人々の間に「見知らぬ他人を信じるしかない」という覚悟が広がっていった。


——午前10時。


東京の空はまだ黒煙に覆われていた。

だが指揮を失ったはずの街で、人々は小さな秩序を作り出し始めていた。


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