第107章 市街地突入
——2027年11月16日 午前7時05分。東京都・新宿駅西口。
避難放送が地下構内に響き渡る。
「落ち着いて行動してください! 出口を急がずに!」
しかし群衆は動揺し、階段を押し合うように殺到していた。
頭上のガラス天井を震わせるような、低く無数のプロペラ音。
誰もが「もう一度」が来ることを悟っていた。
外に出た瞬間、目に飛び込んできたのは黒い影の群れだった。
高層ビル群の間を縫い、無人機が低空で滑り込んでくる。
「頭を下げろ!」
警視庁機動隊が路上に展開し、携行SAMを次々と発射。
白い光が夜明けの街を裂き、数機が火球と化して墜落する。
しかし破片はビルの壁を削り、車両に突き刺さった。
——霞ヶ関 官庁街。
仮設の救護所で医師と看護師がまだ手当を続けていた。
震える声で叫ぶ青年がいる。
「もう一度だって……本当にまた狙うのか!?」
その答えを待つより早く、轟音が上空を走った。
ドローン数十機が霞ヶ関の上空をかすめ、官庁街の谷間に降りてくる。
防衛省前に展開していた陸自高射部隊が即応した。
「発射!」
携帯式SAMが閃光を放ち、突入機の一群を吹き飛ばす。
だが爆薬を抱えた一機が省庁庁舎に激突。窓が爆風で吹き飛び、避難していた職員たちが悲鳴を上げた。
救護テントは衝撃で倒れ、点滴スタンドが散乱する。
医師は血まみれになりながらも患者を抱き、声を張り上げた。
「搬送継続! 止めるな!」
戦闘と救護が同じ通りで同時に進む光景は、誰も想像したことのないものだった。
——新宿西口交差点。
LAV(軽装甲機動車)の機関銃が火を噴き、迫る群れを撃ち落としていく。
破壊されたドローンが地上で爆ぜ、タクシーやバスに炎が広がった。
逃げ惑う市民の列と、銃撃の火線が交錯する。
一人の自衛官が無線に叫んだ。
「民間人が退避しきれていない! 遮蔽物を確保しろ!」
消防隊員はなおも負傷者を担架で運び出していた。
だがその頭上に、新たな編隊が影を落とした。
「来るぞ!」
その叫びの直後、機関銃とミサイルが一斉に火を吹いた。
閃光と爆炎が交差し、まるで市街戦と空襲が同時に繰り広げられているかのようだった。
——午前7時30分。都庁展望台のガラス越しに、子どもが怯えた声で母親に尋ねた。
「……まだ終わらないの?」
母親は答えられなかった。
ただ抱き寄せたまま、黒煙に覆われていく新宿の街を見つめ続けるしかなかった。
——東京は、救護と復旧の只中に再び焼かれようとしていた。
それは“戦争”ではなく、二度目を狙う非道なダブルタップそのものだった。
 




