第55章 回復
翌朝 午前6時 ―― 台湾東岸 花蓮前線後方
夜を裂いた照明弾の光は、やがて夜明けとともに消えていった。
東の空が白み始める頃、防衛線の兵士たちは泥の中に身体を投げ出したまま、短い眠りに落ちていた。
だが、それも長くは続かなかった。
「……来るぞ!」
前線観測所の兵士が空を指差す。
再び、重低音が谷間に響いた。
前夜に補給を投下した米空軍C-17グローブマスターIIIが、今度はさらに低い高度で接近してくる。
機体の巨体は朝焼けを背に黒い影となり、東岸の山々の上をなめるように飛ぶ。
「投下準備完了!」
ランプが開き、パレットに固定された大型車両が姿を現した。
装甲救急車、補給トラック、工兵用ブルドーザー。
それらが専用パラシュートに引かれ、一斉に空へと滑り出す。
「リリース!」
地響きのような音と共に、巨大な影が次々と降下していった。
白とオレンジのパラシュートが一斉に開き、ゆっくりと回転しながら降下していく。
地上の兵士たちが息を呑み、着地点へと走り出す。
「車両パレット着地、無事!」
「装甲救急車2両、タイヤ正常!」
「補給トラック、積載燃料・弾薬コンテナ intact!」
台湾兵が歓声を上げ、自衛隊員は即座に工兵車を展開する。
ブルドーザーがエンジンを唸らせ、瓦礫を押し退けて前線への補給ルートを切り開いていく。
補給トラックは、弾薬箱と燃料ドラムを積んだまま、防衛帯へ走り出した。
さらに、装甲救急車が担架を搭載し、負傷者を次々と収容していく。
昨日まで毛布にくるまれて呻いていた兵士が、安定した車内に収容され、医療班に引き渡された。
「これで後送ができる……」
陸自衛生隊の曹長が深く息を吐いた。
その様子を見た台湾陸軍の中隊長は、汗と泥にまみれた顔で呟いた。
「夜を越えただけではない。……これで、前に進める」
上空のC-17は旋回し、翼をわずかに傾けて去っていった。
残されたのは車両と物資、そして「継続する戦力」という現実だった。
兵士たちは再び銃を握り、砲を装填し、戦列を組み直した。
光と補給が与えられたこの朝――
台湾東岸の防衛線は「絶望から希望へ」と確かに塗り替えられていた。




