第53章 救援
午後4時30分 ―― 台湾東岸 花蓮郊外
雨のように降り注ぐ砲弾の轟音の中、陸上自衛隊第1空挺団の臨時拠点は土嚢と鉄板で辛うじて形を保っていた。
爆風で吹き飛ばされた竹林の間から、台湾陸軍の兵士たちが泥だらけの姿で走り込んでくる。
「前線、また突破されかけてる!」
息を切らした声に、日本の隊員が短く答える。
「持ちこたえろ、あと数分で航空支援が来る!」
だが、空は厚い雲に覆われ、轟くのは敵砲の音ばかり。
兵士たちの目には疲労と焦燥が濃く張り付いていた。
その時だった。
遠くの空に低く響くジェット音。
最初は幻聴かと思われた。だが、やがて轟音は近づき、雲間から編隊の影が現れた。
「……F/A-18だ!」
誰かが叫ぶ。
青白い稲妻のように低空を切り裂き、米海軍の艦載機が花蓮の東岸上空へ突入していく。
続いて高高度に、F-22のシルエットが旋回し、防空網を広げる。
その背後に、E-2D早期警戒機のシンボルが僅かに覗いた。
「こちらヴィンソン管制。CAP“DRAGON-ONE”、オンステーション。地上部隊、識別信号を送れ」
無線に英語が割り込み、直後に日本語の通訳音声が重なる。
「こちら〈カール・ヴィンソン〉。対空掩護に入る。識別用ストロボを点灯せよ」
陸自通信兵が慌ただしく赤外線ビーコンを点灯させる。
その直後、雲間からの急降下。
F/A-18の編隊が敵砲兵陣地を狙い、JDAMが次々と地表に落ちる。
地鳴りが走り、台湾陸軍の前線を襲っていた砲火が一気に途絶えた。
一瞬の静寂。
その後に訪れたのは、兵士たちの荒い息と、どよめきだった。
「止まった……砲撃が止まった!」
「本当に来たんだ……米軍が!」
泥に膝をついていた台湾兵が、両手で顔を覆ったまま泣き崩れる。
隣にいた陸自の曹長は、その肩を叩き、短く言った。
「まだ終わってない。だが――これで前を向ける」
頭上を旋回するF-22が、黒い雨雲を裂きながら鋭く旋回していく。
その軌跡は、疲弊した兵士たちにとって、ただの航空機ではなかった。
「まだ我々は孤立していない」という確かな証明だった。




