第52章 苦戦
台湾東岸・台東北部防衛線 ―― 午前7時
海岸線は黒煙に包まれていた。
夜明け前から続く砲撃で、砂浜は無数のクレーターに変わり、炎と砂塵が混じって立ち上がっている。
そこへ、中国人民解放軍の水陸両用戦闘車両が次々と押し寄せてきた。
自衛隊と台湾陸軍は、丘陵地帯に築かれた防御陣地で必死に応戦していた。
土嚢で固められた塹壕から、87式自走高射機関砲とJavelin対戦車ミサイルが火を噴く。
砂浜に突入したZTD-05の一両が、爆炎を上げて横転した。
だが、その背後にはまだ十数両が待機していた。
撃破しても、撃破しても、新たな車列が砂浜を埋めていく。
「弾薬残り少ない! 再装填急げ!」
陸自隊員が汗まみれの顔で叫ぶ。
隣で台湾兵が迫撃砲を操作しながら、震える声で答える。
「補給は……来ないのか?」
丘陵の背後に設置された120mm迫撃砲が一斉に火を噴いた。
だが、対岸から飛来する無人機が即座に位置を特定し、敵砲兵が逆撃を加える。
耳を劈く轟音とともに迫撃砲陣地が吹き飛び、砲兵小隊は土砂に呑まれた。
「くそっ、ドローンに見られてる!」
自衛隊の観測員が空を睨む。
上空には小型偵察UAVが無数に浮かび、前線の動きを逐一中国側に伝えていた。
午前8時 ―― 前線の崩れ
中国海兵隊が砂浜に展開を開始した。
黒い迷彩服の部隊が、煙幕を焚きながら塹壕へ突撃してくる。
その背後からは火箭砲(ロケット砲)が次々と撃ち込まれ、陣地の上に爆炎の雨を降らせた。
「頭を下げろ!」
陸自小隊長が叫び、部下を押し倒す。
直後、塹壕の一部が崩れ、3人が土砂に埋もれた。
救出しようと手を伸ばすが、頭上を弾丸が掠め、近づくことさえできない。
台湾兵が震える声で無線を飛ばす。
「前線突破される! 敵戦車、距離500!」
陣地奥から01式軽対戦車誘導弾の射手が飛び出し、狙いを定めた。
発射音とともにミサイルが飛翔し、敵戦車の正面を直撃。
炎が噴き出し、一瞬歓声が上がる。
だが、次の瞬間、別の車両の砲撃が塹壕を直撃し、射手は光と砂塵に呑まれた。
「また来るぞ!」
「弾が足りない!」
叫びが交錯する。
午前9時
自衛隊員と台湾兵は、もはや国籍を意識する余裕もなく互いに背中を預けていた。
台湾兵が手榴弾を投げ、自衛隊員が機関銃で援護する。
泥に倒れた仲間を、国境を越えた手が引きずり出す。
数で圧倒する中国軍の上陸部隊が止まらない。
丘陵を背にした防衛線は、じわじわと押し潰されていく。
兵士たちの心には、はっきりと「このままでは持たない」という絶望が広がりつつあった。




