第51章 再び燃える東岸
同じ時刻、台湾東岸・花蓮郊外の前線。
自衛隊と台湾陸軍の合同部隊は、辛うじて形を保った塹壕で一夜を明かしていた。
東京への核攻撃の報が伝わってから、士気は揺れた。
「日本は本当に我々を支援できるのか」という疑念が、兵士たちの胸に影を落としていた。
「今は持ちこたえるしかない。」
台湾陸軍の中隊長は、泥に汚れた顔を仲間に向け、そう言い聞かせた。
夜半を過ぎた頃、沖合の海面に不穏な光が現れた。
レーダー監視班が声を張る。
「複数の艦影接近! 識別不明!」
直後、無線に入った暗号報が状況を裏付けた。
「中国揚陸艦隊、福建沿岸より発進。休戦協定を破棄し、東部戦線へ侵攻開始。」
塹壕に沈んでいた兵士たちが一斉に顔を上げた。
「休戦は……破られたのか。」
夜明けと同時に、沖合の水平線から黒い列が浮かび上がった。
揚陸艦の群れ。甲板には水陸両用戦闘車がずらりと並び、今にも海へ躍り出そうとしていた。
台湾軍の砲兵中隊が先に動いた。
「射角、調整完了! 撃て!」
榴弾砲が火を噴き、弾丸が海上へと降り注ぐ。
爆炎が水柱を上げ、数隻の揚陸艇が炎に包まれた。
だが、残りの大群は止まらない。
空からは殲-16戦闘機の編隊が迫り、防空陣地に爆弾を落とす。
耳をつんざく爆音と共に、前線の掩体壕が吹き飛び、兵士たちが土砂の下に押し潰された。
「空襲だ! 頭を下げろ!」
自衛隊の隊員が台湾兵を押し倒し、覆いかぶさる。
その背後で爆風が土を巻き上げ、塹壕全体が揺れた。
数分後、海は装甲艇で埋め尽くされた。
次々と海岸に突入し、砂浜を駆け上がるZTD-05が砲塔を旋回させる。
砲声が轟き、砂の壁が砕け散る。
「敵、上陸開始!」
観測班の叫びと同時に、自衛隊と台湾軍の防衛線が一斉に火を噴いた。
機関銃、対戦車ミサイル、迫撃砲。
砂浜は火と煙に包まれ、数十両の戦闘車両が炎を上げた。
だが、敵の波は止まらない。
一両が撃破されても、後方からさらに二両、三両が押し寄せてくる。
「休戦が破られた」という冷徹な事実が、戦場全体を覆い尽くしていた。
台湾兵の一人が震える声で叫んだ。
「日本は……本当に来るのか?」
それに答えるように、後方から轟音が広がった。
嘉手納から発進したF-22の編隊が、ついに東岸上空に到達したのだ。
青い閃光のように敵機を蹴散らし、空を再び味方のものとする。
その姿を見上げた兵士たちの胸に、わずかな希望が灯った。
たとえ休戦が破られ、再び炎に包まれようとも――
この島を、まだ守れるかもしれない。




