第28章 奇跡の一発
——敵弾頭、再接近。
「ID 52、速度マッハ7.2、迎撃ウィンドウまで残り47秒!」
再構築されたCICには、まだ焦げた金属と焦げた血の匂いが残っていたが、照準ホログラムだけは機能を取り戻していた。
「残存火器系、艦尾レールガン一基。レーザーは冷却喪失、VLS残弾ゼロです」
「了解。レールガン一点集中。軌道補正開始。補助センサに照準切り替え」
照準士が沈痛な顔で頷く。
「目標落下角、42度。迎撃可能範囲ギリギリです」
「艦体角度を8度右へ傾斜。主コイル冷却間に合うか?」
「チャージ率84%……過熱ギリギリです。撃てるのは一発。外せば、次はありません」
息を詰める空気のなか、私は静かに言った。
「なら外すな」
コイルの過熱警告が点滅し、銅色のフィンが震える。ノイズ混じりのホログラムに、ID 52のシルエットが捕捉された。超高速度の弾体が雲層を突き抜け、一直線に《大和》の機関部へ向かっている。
「照準ロック、成立。予測交差点、9秒後……」
「撃て」
静電気のような振動とともに、レールガンが火を噴いた。マグネティック・コイルが赤熱し、空間が一瞬だけ歪む。
発射されたタングステン弾は音を置き去りにし、最短軌道で飛翔。
——だが。
「目標、回避行動! 軌道ずらした!」
「かすめた! 直撃ならず!」
沈黙。
CICに誰かの喉が鳴る音だけが響いた。
「ID 52、進路再補正中……距離、20km。残り迎撃手段——ゼロ」
惟人は拳を握りしめた。
そのとき、艦内通信が鳴る。
《機関区より。機関砲モジュール、手動給弾で一門のみ再起動可能。初速は通常の8割、照準補正は非対応》
「——それでも、撃てるか?」
《命中精度、5%以下》
「十分だ。リンク回線開いてくれ。座標をこちらで送る」
惟人は全身の筋肉を使って立ち上がり、マニュアル照準ホイールに手をかけた。
誰も何も言わなかった。
この一発が外れれば、《大和》の心臓が止まる。
でも、あのとき撃たなかった艦を、俺たちは知ってる。
「撃て」
機関砲が低く唸り、点火装置が手動で押し込まれる。
——弾体が空を裂いた。
刹那、艦内が揺れる。
警報音とともに、センサが点灯。
「ID 52、断片化! 直撃ではないが、機体構造破損! 衝撃波で自壊開始!」
「迎撃——成功」
誰かが息を吐いた。
生きている。まだ、生きている。




