表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン7
855/2460

第28章 奇跡の一発



——敵弾頭、再接近。


「ID 52、速度マッハ7.2、迎撃ウィンドウまで残り47秒!」


再構築されたCICには、まだ焦げた金属と焦げた血の匂いが残っていたが、照準ホログラムだけは機能を取り戻していた。


「残存火器系、艦尾レールガン一基。レーザーは冷却喪失、VLS残弾ゼロです」


「了解。レールガン一点集中。軌道補正開始。補助センサに照準切り替え」


照準士が沈痛な顔で頷く。


「目標落下角、42度。迎撃可能範囲ギリギリです」


「艦体角度を8度右へ傾斜。主コイル冷却間に合うか?」


「チャージ率84%……過熱ギリギリです。撃てるのは一発。外せば、次はありません」


息を詰める空気のなか、私は静かに言った。


「なら外すな」


コイルの過熱警告が点滅し、銅色のフィンが震える。ノイズ混じりのホログラムに、ID 52のシルエットが捕捉された。超高速度の弾体が雲層を突き抜け、一直線に《大和》の機関部へ向かっている。


「照準ロック、成立。予測交差点、9秒後……」


「撃て」


静電気のような振動とともに、レールガンが火を噴いた。マグネティック・コイルが赤熱し、空間が一瞬だけ歪む。


発射されたタングステン弾は音を置き去りにし、最短軌道で飛翔。


——だが。


「目標、回避行動! 軌道ずらした!」


「かすめた! 直撃ならず!」


沈黙。


CICに誰かの喉が鳴る音だけが響いた。


「ID 52、進路再補正中……距離、20km。残り迎撃手段——ゼロ」


惟人は拳を握りしめた。


そのとき、艦内通信が鳴る。


《機関区より。機関砲モジュール、手動給弾で一門のみ再起動可能。初速は通常の8割、照準補正は非対応》


「——それでも、撃てるか?」


《命中精度、5%以下》


「十分だ。リンク回線開いてくれ。座標をこちらで送る」


惟人は全身の筋肉を使って立ち上がり、マニュアル照準ホイールに手をかけた。


誰も何も言わなかった。


この一発が外れれば、《大和》の心臓が止まる。


でも、あのとき撃たなかった艦を、俺たちは知ってる。


「撃て」


機関砲が低く唸り、点火装置が手動で押し込まれる。


——弾体が空を裂いた。


刹那、艦内が揺れる。


警報音とともに、センサが点灯。


「ID 52、断片化! 直撃ではないが、機体構造破損! 衝撃波で自壊開始!」


「迎撃——成功」


誰かが息を吐いた。


生きている。まだ、生きている。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ