第24章 艦橋、壊滅
蒼井惟人 二等海尉
艦橋砲術副主任
——視界が焼けた。
閃光とともに衝撃波が艦内を貫き、空気が瞬時に引きちぎられるような感覚が走った。制御卓が爆ぜ、CICの前方ブロックが白熱する。床が軋み、あらゆる警報が鳴った——だが、音は一拍遅れて聞こえた。感覚のほうが先に崩れた。
蒼井惟人二等海尉の頭上から何かが降ってきた。破片か、誰かの椅子か。避けきれず、左肩に硬い衝撃を受ける。
「南條大尉!」
声が出るより先に、彼のいた場所が炎に包まれていた。第一主制御卓は跡形もなく吹き飛び、司令席の防爆シールドが曲がっている。艦橋そのものが、中央からえぐられたように裂けていた。
空気の流れが変わった。艦内圧力が急降下している——艦橋上層、装甲を抜かれた。
「減圧! 密閉、急げ! CIC、隔壁作動中!」
艦橋砲術副主任の蒼井惟人の耳に誰かの叫びが聞こえたが、通信系統もやられている。自動制御は部分的に機能しているが、艦内ネットワークの応答が薄い。
彼は崩れた端末から這い出し、補助制御卓に手を伸ばした。生きている。微かに、制御信号が残っている。
「副系統、ルーティングを切り替える……生き残りの火器モジュール、どこだ……」
表示がちらつきながら立ち上がる。レールガン照準ユニットの一部が反応している。艦尾側、かろうじて無傷だ。だが、レーザー兵装は——
「……冷却喪失。管制過熱。レーザー系は沈黙だな……」
声に出すと、現実として受け入れられた。
周囲には煙。火災警報の点滅。酸素濃度の低下も警告が出ている。
制御卓の裏で呻き声。技術兵のひとりが、額から血を流しながら私を見上げていた。
「照準系……リンク切れてます……惟人……」
「大丈夫、こっちで再接続する。生きてる火器は残ってる」
片手で彼を引き寄せ、安全フレームに預けると、私は自分の端末に再び向かった。
CICの空気は熱を帯びていて、まだ火がくすぶっている。
「艦尾ブロック、こちら艦橋補佐。火器制御、生きてる奴に切り替えろ。サブノード、こちらから繋ぎ直す」
「応答確認……ただし、主照準は全損。補助回線のみ有効」
「充分だ。マニュアルでも撃てる」
断続的な振動。艦体がかすかに傾く。推進系がまだ動いている証拠だ。
彼は膝で身体を支えながら、ホログラムの残骸から次の目標座標を手動で打ち込み始めた。
「ID 52、進入速度マッハ7強。レールガン射角——補正が間に合えば、まだいける」
蒼白になった砲術士の一人が言った。
「レーザーが生きてたら、止められたのに……」
「“もし”は無意味だ。使えるものを使う」
火花が飛び、床がまだ震えている。だが、手は止めなかった。
「艦橋制御、暫定引き継ぎ。こちら、蒼井惟人。現在、CIC生存メンバーによる再構成作業中」
誰が指示したわけでもない。だが、その声に応じて、周囲の隊員たちが立ち上がる。血と埃にまみれた顔、焦げた制服。だが、誰も下を向いていなかった。
——あの場所で命を落とした指揮官達の代わりに、だれかがこの艦を動かさなければ。
その問いに、
彼はただ手を動かしながら、こう答えていた。
「まだ沈んでいない。だから、まだ動ける」




