第13章 破砕(Shatter)
04:51 JST
東京都千代田区・神田神保町 / 内閣危機管理センター(永田町)
突如として、東京の空を裂くような閃光が走った。
神田神保町——古書店街の並ぶ文化的なこの地域に、推定質量500kg、爆薬搭載量300kgの通常弾頭が秒速3.5kmで突入した。
ミサイルはPAC-3の最終防衛網をすり抜け、弾頭分離後の高速度体としてほぼ垂直に突き刺さった。衝撃点は、靖国通りと白山通りの交差点から北にわずか100メートル、かつて建設された旧耐震基準下の中層ビル群だった。
衝突の瞬間、大気中の摩擦と突入角により、爆薬は上向き・側方に指向性を持って拡散した。地下構造と都市空間の密度がそれを受け止め、圧縮波は360度放射状に広がる。
建物6棟が即座に倒壊。強化ガラスは数百メートル先でも爆裂し、神保町交差点周辺は、まるで時代が逆戻りしたかのように、戦火の街並みに変貌した。
半径300メートル以内の通信塔は、震動と熱風で破壊され、次の瞬間には情報の空白地帯が出現した。ドローンカメラのフィードはブラックアウト。携帯基地局は断線。警察・消防の指揮回線も部分喪失した。
「……通信、中央区・千代田区・墨田区の一部、ダウン。防災無線に切り替えます!」
内閣危機管理センター地下第2層では、すでに危機レベルがレッドゾーンに移行していた。オペレーターたちは机に縛りつけられたように、衛星映像と災害マップを交互に確認し続けていた。
「都知事、応答なし。都庁側の地下伝送線も死んでます!」
「市ヶ谷駐屯地は無事。ただし千代田線・中央線、断線。移動不可」
「衛星回線再構築中。バックアップネットは衛星2号に迂回中」
指揮席に座る防衛相代理の栗本統合幕僚監は、無線ヘッドセット越しに言葉を切った。
「……都市攻撃、これが戦後初だ。首都への着弾。しかも核の可能性を最後まで排除できなかった……」
誰も応えなかった。
カメラが復旧したわずかな回線で届いた神保町上空の画像には、かつて書店街だったはずの街並みに、無数の瓦礫と濛々とした土煙が広がっていた。




