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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン7

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第9章 明け方のアラート


東京都千代田区、神保町の裏通り。午前5時を回ったばかりの空は、夜と朝の狭間に沈んでいた。蒼白い光がビルの谷間に溜まり、室内にはまだ人工光の残滓が漂っていた。


今まで沖縄、台湾、石垣島で経験した従軍取材をまとめていたところだった。


野間は、誰もいない編集部の奥、古い合板机に肘をつけ、未明のニュースワイヤーを睨んでいた。


——北朝鮮がミサイルを発射した。複数。正確な数は未確認。


グローバル・アラートシステムが作動し、日本政府が全国にJアラートを発出。画面に現れる赤色のバナー。無機質なフォント。更新される数字。


次の瞬間、スピーカーから警報が叩きつけられた。


「ミサイル発射、ただちに避難してください。ミサイル発射、ただちに避難してください——」


警報は録音音声のはずなのに、生々しく鼓膜を震わせた。編集部の他の机には、誰もいなかった。昨夜、最後に帰った若い記者は23時すぎ。不規則な就労形態と、安月給に耐えるのは、新聞社から弾き出された人間か、そうなる未来が見えていない若者だけだ。俺はそのどちらでもなかったが、残っていた。


窓の外に目をやる。靖国通りの車列が、異様に静かだ。数台のタクシーが急発進した跡が見えた。神保町交差点の上空には、青白い光の中に**“影”のようなものが浮いていた。いや、違う。違和感の原因は、「空そのものの音の無さ」**だった。


「JGSDFの迎撃、間に合うか?」


呟いた言葉は、誰にも届かない。それでも記者としての習性で、PCのタイムスタンプを確認し、note padにタイプを打ち込む。


【05:12】北朝鮮、同時多発弾道ミサイル発射。数十発の可能性あり。対象は不明。米軍・自衛隊、迎撃体制へ。都内アラート作動確認。


電波が残っているうちに、社のクラウドサーバへ自動送信ができるようにしておく。それは、もう反射的な動作だった。


備え付けの携帯ラジオを起動。NHKはまだ「国民保護に関する特別報道」を開始していない。それよりも先に、Twitter——いや、今はXか——に民間アカウントの投稿が噴き出す。「ミサイル?マジで?」「新宿、警報なった…今走ってる」「高円寺、駅閉鎖!」


誰も正確な情報を知らない。だが、皆が“共有している現実”だけはあった。この都市が、ターゲットにされているという現実が。


俺は立ち上がる。電灯を消し、窓を閉め、カーテンを引いた。大して役には立たないだろうが、規定通りの動作。そして最後に、PCのログイン画面をもう一度確認し、暗号化クラウドへの接続を完了させた。たとえオフィスが吹き飛ばされても、データだけは残る。誰かがそれを読むなら、意味はある。


「……ここから先は、観察する側ではなくなるかもしれんな」


かすかに手が震えていた。予測はしていたが、こんなに早いとは。

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