第7章 大和 迎撃開始
午前4時45分
東京湾
戦艦《大和》艦橋内、対空戦指揮所
コン、コン、コン、コン……。
深夜の艦橋に、アラート音が乾いたリズムで鳴り響いた。瞬間、艦内照明が赤色警戒灯に切り替わり、戦闘配置を告げるサイレンが全区画に響き渡る。
「状況確認!」
艦長席右のCIC(戦闘情報センター)オペレーターが、座席に固定された複数のマルチディスプレイを即座にスキャンしながら叫んだ。「SBIRSよりミサイル発射探知!慈江道東部より、同時に6本、ICBM級!」
「トラック開始!Aegisモジュール、SM-3ブロックIIA発射準備!」
「AESAフェイズドアレイ照準、交戦域へシフト!」
その声と同時に、大和の艦橋中央に投影された全周360度戦術マップに、**赤いアーク(弾道軌道)**が6本、空を引くように立ち上がった。ほとんど同時発射された核搭載弾道ミサイルが、日本上空を越えてくる。
「第一目標、高度判定:310km……初速3.9km/s……SM-3、上層迎撃可能!」
「方位231、仰角38、距離480、迎撃時間T+83秒!」
艦長・鷹見は、わずかに顎を引いた。
「撃て」
「SM-3、セーフティ解除。ミッション・リリース!」
艦体左舷、第4甲板下に格納されたVLS(垂直発射システム)が作動音を唸らせる。
ズォォンッッ!
真夜中の空に、長距離迎撃ミサイルSM-3ブロックIIAが火柱をあげて発射された。追って第2弾、第3弾が間隔を置かずに飛び出す。
「第1目標、弾道マーカー照合完了。迎撃判定:高度256km、成功確率79%。」
「第2、第3弾も交戦域へ。交差判定、誤爆リスクなし。問題なし!」
大和の艦橋には、明確な自信が漂いはじめる。この艦は、イージス艦ではない。だが、改装によりFCS-3ベースのAESA多機能レーダーを搭載し、海自のイージス艦と同等のBMD処理能力を備えていた。
「こんごうより連携通信、発射確認。共闘フェーズ移行」
「連携シンクロOK。航跡照合。大和・こんごうで2目標撃破可能性高!」
しかし、状況は一変した。
「残り3発、軌道変化を開始!終末誘導モードか!?」
「……MIRV(複数弾頭)か。分離確認!」
「軌道分離、弾頭数は増加中……第4・第5発目、太平洋側へ向かう。SM-3による迎撃不可能!」
「陸上BMDへ転送!」
同時に、CICのスクリーンが分割表示される。各地域に配備された航空自衛隊のPAC-3部隊が自動的に迎撃シーケンスへと移行していた。
「秋田、石川、岐阜、千葉、横須賀のPAC-3ユニット、迎撃シーケンス確立。カバー率78%。」
「東京方面は?」
「……カバー範囲、分離弾頭1発が迎撃可能圏外に!」
沈黙が、艦橋を包んだ。
鷹見艦長は、深く息を吐いた。「“那の津”のPAC-3追加ユニットは?展開済みか」
「展開はしていますが、」
「……間に合わんか」
艦内の空気が、わずかに硬直する。鷹見は目を閉じ、指令官用回線の端末に手を伸ばした。「こちら戦艦《大和》。迎撃可能なすべての目標に対し、SM-3追加射撃を要請。残り弾数は考慮せず、最大火力を投入せよ。PAC-3側にも、制限解除を伝達。迎撃優先度、東京→横浜→名古屋の順とする」
「了解。防衛省、指令中枢に伝送中——」
その時だった。
「ブースト段階の熱源、さらに3本……増加確認。新規発射!」
「後続弾か!?発射数、計9に!」
深夜の日本海に、再び炎が閃く。




