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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン6

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第131章 動く影、沈む都市


01:38 JST(平壌時間 00:38)

慈江道・半地下型林道 TEL発射陣地α-19


林を切り開いた秘密道路に、TEL(地上移動式発射機)6両が無灯火で展開していた。林道の両側には、偽装用の車両カバーとフレームが散乱しており、数時間前までここに「民間木材運搬隊」がいたように見せかけていた。


「発射機、姿勢制御開始。座標照合完了まで13分。」


通信兵の声に、キム大佐は防風マントの下から凍えたような息を吐いた。寒いのではない。体が、いま自分の引き金が何百万もの命を左右すると知っているからだ。


彼はこの場所を選んだ。標高513メートル、林道の傾斜角2.8度、米軍の監視衛星の観測角度から約12分の“監視ブラインド”が生じる絶妙なタイミング。しかも移動の軌跡は、直前まで人工衛星が検知した偽装部隊の走行軌道と一致するように調整されている。


「姿勢完了。仰角+48.3度、方位185度、弾道プロファイルE-Deltaに従属。」


6基の発射機のうち、実弾が搭載されているのは2基のみ。残りはダミーだ。中継管や熱源を模倣した“囮弾”である。だがそれで充分だ。敵は真の標的を識別できない。


弾体は「火星13C」型。中距離~準大陸間弾道ミサイルで、車載式としては同国最大級。液体燃料はすでに24時間前から充填済みで、いまは低温保持のため、特殊断熱カバーがミサイルの全体を覆っている。燃料冷却には林道脇に隠された「液体窒素式冷却機」が稼働中だ。


「ターゲット、更新されました。東京広域、マップコードT-04, T-11, T-23。目標総計人口…推定280万人。」


作戦参謀の声に、空気がひとつ揺れる。

……この発射の意味は単なる軍事的威嚇ではない。彼らが破壊しようとしているのは、日本という国家の「機能そのもの」だ。政府、通信、交通、そして――信頼。


「カウントTマイナス180分、システム最終チェック入ります。」


通信車両から低く囁くように流れる声が林の中に響いた。

キム大佐は、遠く東の空を見やった。月はない。曇っていた。この曇りも、彼らの味方だった。雲量7割超で赤外線観測衛星の効率が低下する。おそらく米軍はまだこの部隊の展開を正確に掴めていない。


だが、すべての準備が整っているわけではなかった。


「第3発射機のジャイロが誤差許容外にあります。再較正します。」

「作業急げ。10分以内だ。冷却が切れるぞ。」


張り詰めた声が飛ぶ。TEL部隊の整備員は、この10ヶ月間、仮設の整備拠点と山中移動を繰り返してきた。北朝鮮の資源不足の中でも、彼ら**“第8移動発射旅団”**だけは特別待遇だった。食料、発電機、液体酸素。国が傾いても、ここの物資だけは優先されていた。


国家主席の「遺言」。――“この任務を完遂せよ。たとえ国家が崩壊しても、敵に恐怖を刻め”。

その意志を、この林道の片隅で、キム・セフンは黙って受け継いでいた。


「発射指令装置、ステータス・ホット。標的コード確認。」


司令車のラック上、赤いランプが点滅し、ディスプレイには“指令承認:主席コードZ-1”と表示された。

いまや大佐の判断では止められない。コマンドラインは軍最高指導部を介さず、すでに独立して作動している。発射の権限は、一定時間が経てば、予め組まれた“自律シーケンス”に移行する。


林の奥で、乾いた音がした。大佐の後方で、ひとりの兵が静かに敬礼をし、拳銃を自らのこめかみに向けた。


「任務完遂後、証拠を残さぬよう。……これが最期の軍令だ。」


兵は無言で頷き、闇に溶けた。

キム大佐はそっと拳を握った。発射の時が近づいていた。

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