第103章 亡国の標的
北朝鮮・慈江道 山岳軍事区画内 地下第2司令棟 爆撃跡
崩れた地中コンクリートの裂け目から、硝煙の残滓がかすかに漂っていた。ここは、昨夜B-21のMOPが地表から直接貫通し、通信基幹部ごと押し潰したはずの、サイロの裏手にあった司令棟跡地だ。
だが――まだ“中枢”は死んでいなかった。
「EMPによる回線ダウンは確認できず。ここには、完全な光ファイバー・非電磁遮断系が残っていたらしい。しかも独立電源だ」
肩越しに語るのは、韓国・第707特殊任務大隊のキム中尉。米軍との共同作戦に慣れているが、北朝鮮領内での“越境合同作戦”は、公式には存在しない。ケインたちのチームは、空爆によって開いた崩落孔から、ロープを使って地下40m層へ侵入していた。6名の精鋭が無音で動く。
「……照明、点灯確認」
ケインのナイトビジョンに映ったのは、無人化された副指令室だった。だが、奇妙なことに制御端末の一部が動作中だった。
「自己診断ループじゃない。これ、何かに“指令”を送り続けてるぞ」
米軍側通信解析担当のミラー曹長が、電源を保ったサーバー群から回線データを抽出する。ルーター系は分断されていたが、一部の暗号化プロトコルが生き残っていた。
「――これ、日本語の地名じゃないか?」
ミラーが画面を指差した瞬間、誰もが動きを止めた。そこには、漢字で“豊島区港区千代田区”と明記されたターゲットデータが、信じられないほど明瞭な一覧で表示されていた。しかも、横には各種ミサイル名が記されている。
火星13改(ICBM)
KN-25(多連装短距離弾)
潜水艦発射型 KN-23SLBM
巡航ミサイル “ペクトゥ山”
そして――全ての発射時刻欄が空欄のままだった。
「これは……“プリセット済み”だ」
キム中尉が吐き捨てるように言った。
「東京に集中飽和させる構えで、あとは指令一つで発射できる状態だ。どれも数分で起動可能」
だがその瞬間、地下深部に微かな“カタリ”という音が反響した。
「後方、接敵音! センサー未検知!」
銃撃音と同時にケインは自動的に閃光弾を投擲する。
3人の北朝鮮兵が突入してきた。そのうちの1人は拳銃を自らの頭に向け、呪文のような言葉を叫びながら引き金を引いた。
――直前、録音マイクがその声を拾った。
「首領様の意志は変わらない……東京を……東京を血で清めよ……!」




