第88章 北朝鮮・地下国家主席司令部
DAY12 午後15時12分(KST)
北朝鮮・地下国家主席司令部
地下の司令室に、報告官の震える声が落ちた。
「──速報です。日本が、台湾海峡上空で核兵器を使用しました」
沈黙。
換気ダクトの低い唸りが、まるで天井から砂を降らせるように響く。スクリーンにはCNNの速報テロップが赤い帯となって走り、その横でロシア通信社の速報も同時に点滅している。
「確認を」主席の声は低い。
「三系統からのクロスチェック済み。米国防総省は“同盟国による核的オプションの発動”と表現。中国外交部は“前例なき核攻撃”と抗議声明を準備。国連は緊急安保理の招集に入っています」
参謀総長は机に両手を置き、指先を強く握りしめた。
「日本が──核を。……あの国が、」
「閣下。我々は“赤星”の発射命令を下した直後です。この報により……作戦の変更は?」
主席は答えず、机上の写真立てを見下ろした。裏返したままの、桜の下で笑う家族の写真。
「……歴史は変わった。核を先に使ったのは我々でもなく、米国でもなく、中国、ロシアでもなく、日本だ。敗戦国が、戦勝国に先んじた」
彼は深く息を吸い、声を低く落とした。
「これは、我らにとって最後の“盾”を失うことを意味する。同時に、最後の“剣”を手にした者の姿を示した」
参謀の一人が震える声を挟む。
核を使った者は、常に恐怖の輪の中に立つのです」