第59章 イジェクション
DAT11+18時間
精密爆撃を終え、機体を急上昇させた直後、突如として背後から閃光が走った。
「被弾、被弾!機体制御不能!」
私は何度も操縦桿を引き、機体を立て直そうと試みるが、機体は激しいスピン状態に陥り、全く反応しない。対空ミサイルの直撃だ。
強烈な衝撃が機体を襲い、F-15Jは制御不能な状態に陥る。警報音がけたたましく鳴り響くコックピットの中で、松岡は、急激なGフォースに押し付けられながら、機体が高度27,000フィートから制御不能の状態で急降下していくのを目の当たりにしていた。
高度15,000フィート。被弾の衝撃で、機体は急激な減圧を起こし、コックピット内の温度が急速に低下していく。凍てつくような冷気が私の全身を包み込み、生存本能が警鐘を鳴らしていた。
「機体制御不能……!」
無線で僚機に状況を伝えようと試みるが、すでに通信系統も失われている。機体は急激に不安定な動きを見せ、エンジンの挙動も怪しくなってきた。高度15,000フィートからさらに、無慈悲な急降下を始める。
心臓が胸の中で激しく鼓動し、一瞬の決断が迫られていた。このままでは機体と運命を共にする。
「これは出るしかない!」
深呼吸をして、イジェクションの手順を頭の中で反復する。脳裏に浮かぶのは、イジェクションシートの性能チャート。最低射出高度は6,000フィート。しかし、実際にその高度で脱出操作を完了するには、さらに時間的な余裕が必要だ。わずかな遅延が、私の生存率を著しく下げる。
目の前の高度計が、恐ろしい速さで7,000フィートを切るのを見て、心臓が凍りつく。状況は一秒を争う。私はすぐさま両手をイジェクションハンドルに伸ばし、確実にグリップした。これが生と死を分ける境界線だ。
私は心の中で叫び、イジェクションのプロトコルを思い出す。背中をシートに押しつけ、膝の間のイジェクションハンドルを両手でにぎった。
「イジェクト!」
全ての力を込めてハンドルを引き上げる。シートが爆発的に射出される際の衝撃が、私の全身を貫いた
強い衝撃とともに座席が射出された。ジェットモーターが燃焼を終えると同時に、座席分離シーケンスが自動で働き、シートから体が分離された。エンジンの轟音が遠のき、静寂が訪れる。
だが、すぐに息苦しさが一気に襲ってきた。緊急酸素が自動で供給されていない。私は迅速に行動を起こさなければならなかった。左腰に手を伸ばし、緑色のリングを掴むと力強く引っ張り、酸素マスクからの酸素供給を確保する。
意識が戻りかけるタイミングでリカバリーパラシュートアセンブリが展開し、私はその衝撃に耐えながら生存キットのリップコードハンドルを手動で引き、展開させた。
下を見ると、漆黒の海面がすぐそこに見えた。
着水と同時にライフラフトが自動で展開する。冷たい海に投げ出された私は、生き延びた安堵を感じながら、自らの無力さと、生存への希望を同時に噛み締めていた。
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