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第53章 大和乗員 瀬川鳴海の兄の記憶
1950年、朝鮮戦争が勃発すると、日本はただの補給基地では終わらなかった。連合国総司令部(GHQ)は、共産主義勢力に対抗するための「極東の防波堤」として、日本の軍備を早期に再編することを決定した。
兄の働くドックには、米軍の兵器だけでなく、日本政府が保有を許された小型艦艇が次々と入渠するようになった。それは、戦時中に使用されていた旧式の艦ではなく、M48パットンの主砲のような未来的な技術が盛り込まれた新型艦だった。
「これからは、この船のメンテナンスが俺たちの仕事になる。これが『海上自衛軍』だそうだ」
「海上自衛軍?」
兄は耳慣れない名称に首を傾げた。それは、史実の海上保安庁や後の海上自衛隊とは異なり、明確な軍事組織としての性格を持っていた。政府は、新設された「国防省」の傘下に、陸海空の各軍を創設し、その中核として海上自衛軍が位置づけられていた。