第50章 ファング”・コールマンの記憶の中で
記憶は終わりに向かう。だが、その最期は奇妙な断絶で満たされていた。
祖父の部隊は、最終的に漢江橋梁北岸の高地に陣を敷き、北から来る“人民志願軍”の波状攻撃を迎え撃った。しかし、史実のような圧倒的敗北はなかった。そこには、技術がもたらした圧倒的な優位性があった。
M16アサルトライフルの銃声が、冷たく、そして連続的に響く。当時の米軍兵士が使用していたのは、重く、反動の強いM1ガーランドやM1カービンだった。しかし、記憶の中のM16は、その軽さと連射性能で、敵の波状攻撃を効果的に撃退していた。
「祖父さん、M16は最高だ。M1じゃ、こんなに弾は撒けない」
「そうだな。まるで武器が、俺たちの代わりに戦ってくれてるようだ」
祖父は、隣にいる若い兵士とそんな会話を交わしたのを覚えている。それは、単なる武器ではなく、兵士の戦い方そのものを変えるほどの革命だった。
そして、通信網とナパーム投下の連携が、“人的波”そのものを無効化していった。
史実の朝鮮戦争でもナパーム弾は使用されたが、通信技術の未熟さから、その効果は限定的だった。しかし、記憶の中では、改良された通信システムによって、ヘリコプターや航空機と地上部隊の連携が完璧に機能していた。空からのナパーム弾は、敵の集結地点を焼き尽くし、敵兵の士気を徹底的に挫いた。それは、技術が、無慈悲な人海戦術をも無力化する瞬間だった。
——中国は撤退した。
記憶の中で祖父は、ソウル市庁舎の屋上から、北の空を静かに見つめていた。
「戦争は変わる。技術が、変えてしまったんだ」
祖父はそう呟いた。そして、ホークは知る。
この朝鮮戦争終結後11年後に発生したベトナム戦争で培った技術がすでに、未来の影響を受けてしまったこのパラレルワールドの1950年の朝鮮半島に投入されてしまっていた。歴史は、別の道筋を辿っている。それは、技術の進化が、戦場の姿をいかに変えるかを示す、不気味で、そして圧倒的な記憶だった。




