第39章 甘味な決断(ホワイトハウス)
DAY11 09:00 EDT
ワシントンD.C.・ホワイトハウス 地下会議室
厚い鋼鉄の扉が閉ざされ、地下会議室に重い空気が満ちていた。正面のスクリーンには、米軍衛星から送られてきた赤外線映像が映し出されている。
国防長官が口を開いた。「ソウル市街戦は終結。韓国軍と第2歩兵師団が市内を掌握しました。北軍の組織的な抵抗は崩壊し、残存は散発的なゲリラのみです。我々は、この勢いで平壌を制圧できます」
統合参謀本部議長が言葉を継ぐ。「作戦部の予測では、10日以内に平壌崩壊が可能です。空挺師団の降下により、北軍の退路を遮断すれば、政権は完全に崩壊するでしょう。しかし問題は、鴨緑江を越えた場合です。1950年の悪夢を忘れてはならない。中国が参戦すれば、朝鮮半島は再び泥沼になる」
CIA長官が、冷静な声で情報を追加する。「北京の動向は異常に静かです。SIGINT(通信情報)とヒューミント(人的情報)両方の分析で、彼らは直接の軍事介入を避ける方向です。台湾戦線で手一杯であり、同時に二正面作戦は不可能です。代わりに『技術者の救出』や『国境地帯での難民処理』を口実に、後から影響力を確保しようとしています」
国務長官が、好機だと語る。「それなら、我々にとって千載一遇の好機です。朝鮮半島を統一し、米韓の新秩序を確立できる。問題はロシアです。ウクライナで手詰まりになっているため、この戦線を利用して国際世論を分断する可能性があります」
全員の言葉を聞き終え、大統領が静かに口を開いた。「諸君……我々は1950年の道を再び歩んでいる。しかし、今回は違う。中国もロシアも、全面戦争を望んでいない。私は決断する。平壌を制圧し、北を解体する。だが、鴨緑江は越えない。北朝鮮領内の制圧に留める」
クロスカット(北京との対比)
北京では「事後的影響力確保」を決断。ワシントンでは「北崩壊の即時達成」を決断。
二つの決断は、戦争の行方を大きく変える分岐点となった。