第36章 仁川侵攻(祖父の記憶)トーマス・「ホーク」・アンダーソン
1950年9月15日(金)午前07:30 KST
仁川・上陸地点
干潮の泥に足を取られながら、兵士たちの膝まで泥濘に沈みつつ突進した。前方からは北朝鮮軍の散発的な銃撃が飛んでくる。しかし、艦砲射撃の残響で防御陣地は多くが崩壊しており、抵抗は想定よりも弱かった。
「急げ、塹壕を越えろ!」
小隊長の叫びに応じ、海兵隊員たちは瓦礫に身を寄せながら前進した。
1950年9月16日(土) 仁川市街
上陸翌日、仁川港は国連軍の手に落ちた。補給物資が次々と陸揚げされ、M4シャーマン戦車が揚陸艦から市街に展開する。
「目標は首都だ。奪還には一週間と見積もられている」
指揮官の声は冷静だったが、その目の光は鋭かった。
1950年9月20日(水) 12:10 KST
ソウル西方・市街入口
国連軍の縦隊が、京仁線を経由してソウルに接近する。しかし、北朝鮮軍は市街を要塞化していた。建物の窓には機関銃、屋上には狙撃兵、路地には待ち伏せ小隊。
「一棟ずつ、掃討だ!」
米海兵隊は火炎放射器と迫撃砲を繰り出し、家屋ごと敵を焼き払いながら進んだ。
1950年9月23日(土) ソウル・西大門付近
「機銃座、正面二階!制圧射撃!」
M1919機関銃が火を噴き、ガラス片が散った。突入班が建物へ走り込み、手榴弾を投げ込む。轟音と叫び声が交錯し、煙の中から味方の影が現れる。
「クリア!次の棟へ!」
しかし、その歩みは遅々として進まない。ソウルは巨大な迷宮と化していた。
1950年9月25日(月) 光化門前
瓦礫の街路を越え、ついに王都の門が目の前に現れた。黒煙に包まれながらも、その姿は幻想的だった。
「突撃!」
海兵と韓国軍第17部隊の兵士たちが同時に飛び出す。銃声、手榴弾の炸裂、火炎放射の炎が石壁に広がる。しかし、国連軍の勢いは止まらない。光化門を突破し、ついにソウル中心部へ雪崩れ込んだ。
1950年9月28日(木) ソウル奪還
国連軍はついに首都を掌握した。炎の跡に、国連軍旗と韓国国旗が掲揚され、市民の歓声が響く。祖父は疲労で泥まみれの顔を上げ、灰色の空を見た。
(……戻ってきた。でも、これは終わりじゃない。北はまだ残っている。)




