第32章 火線、山を越えて
DAY10 21:26 JST
台湾・蘇澳北方山地(標高980m)第1空挺団・前線観測基地
梢の間を抜けて、夜空に二筋の閃光が走った。
「……また、奴らか」
陸自第1空挺団・山田2佐は、しゃがんだ姿勢のまま、暗視装置越しに東の海面を見た。夜間でもはっきりと識別できる光点を放つのは、中国海軍のYJ-18C巡航ミサイル。飛行高度は約35メートル。
「来たぞ……」
僚の隊員が小声で忠告する。しかし山田は動じることなく、タブレットに目を落とした。画面には、海自のいずも型DDH(改)「はぐろ」の情報が映し出されている。
艦位:花蓮沖合 約24km(EEZ内)
任務:東側艦隊群の防空傘展開およびミサイル迎撃
《近接2:距離8.2km、相対速度896km/h》
《照準ロック完了。自律迎撃シーケンス起動》
画面に表示されたAI制御の目標捕捉サークルが、ミサイルの予測飛翔経路を即座に解析し、主砲による拡散迎撃弾を射出した。
「発動──!」
映像上では、わずか数フレームの出来事だった。YJ-18Cは空中で「四散」した。、弾体が砕け散る。その数秒後、もう一発が同様に撃墜された。海面に炎が落ちる前に、艦の冷却装置から蒸気が吹き出す。
「花蓮側、迎撃完了。護衛艦の被弾なし、残弾56パーセント」
後方支援班からの無線が入った。しかし山田は反応せず、なおも端末を見つめていた。タブレット上の小さな「はぐろ」アイコンの横に、新たな表示が出る。
《敵目標残数:4(うち2は再進入)》
《衛星偵察データ:東北方より追加ミサイル発射。江島級推定》
「続けて来ますな……。」
山田は顔をあげ、部隊副官に短く告げた。
「空挺管制班に伝えろ。CIWSが突破されたら、迎撃できる範囲に入ってくる奴がいたら、JAVELINを地上発射してでも潰す。いいな」
「わかった!」
──これは、もう「他国のための戦争」ではない。
──ここは、確実に「日本の前線」だ。




