第30章 臨時合同指揮
(DAY10 +6時間
【場所】 台湾東部・花蓮県北部 山間仮設本部
爆風で枯れかけた瓦礫の向こうに、仮設された白い通信幕が揺れている。花蓮北部の山中、旧採石場跡を転用した「臨時合同指揮所」。その地下にある第二作戦室では、自衛隊と台湾軍の幕僚たちが、張り詰めた空気の中で数時間に及ぶ作戦会議を続けていた。
「台北からの第21回通信旅団は完全に沈黙。確認された最後の信号は、総統府付近での交戦中…」
台湾陸軍副司令官のリー準将が、震える声で報告を読み上げる。隣のモニターには、黒煙に包まれる台北市街の衛星映像が映し出されていた。
「時間を稼がねば……台北はもう、政治的には終わっている。だが、我々にはまだ『生きている台湾』がある」
発言したのは、陸自の作戦幕僚・中川2佐。西部方面普通科から派遣されたベテランで、熊本からの派遣要請に即座に応じ、指揮系統を握った男だ。
「台湾東部の山岳地帯は、我が方にとって“自然の要塞”です。問題は、ここを突破されれば、日本列島の最前線が失われるということです」
「米軍は動かないのか?」
台湾空軍の連絡士官が尋ねた。
「第7艦隊はフィリピン沖で待機中。情報共有はされているが、直接的な交戦は日本に任されている。一応、我々が『主体』だ」
返したのは、統合幕僚監部前方連絡官・高瀬1佐。彼の言葉で部屋の空気が固まる。
「ならば──こちらから「交戦」を決断するしかない」
その瞬間、隣室から緊急警報が鳴り響いた。蘇澳上空、空自F-35が中国の無人攻撃機群と接触した。
「迎撃開始。搭載弾はAAM-4Bとレーザー誘導型JSM、対応可能範囲内」
中川2佐は、無言のままタブレットに目を走らせ、決断を下した。




