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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン6
713/2384

第28章 「空の帳」

DAY10 +6時間


台湾東部防空識別圏(ADIZ)


「《破、左高角。熱源、三つ──全機、フレア散布》」


無線を入れる途中、嘉手納基地所属/第305飛行隊 空自1等空尉・石動涼は操縦桿を握り直し、Gスーツが身体を締める。シートの背面が重力の楔のように押し返してきた。HUDヘッドアップディスプレイの表示が一瞬ぶれる。脚の血が頭から引き剥がされていく。


赤外線ホーミング。ミサイルだ。


目標高度、27,000フィート。中国軍の「PL-10」短距離空対空ミサイル。機動性重視、赤外線画像シーカー付き。視覚ではなく、熱を「認識」して戦ってくる。


涼は左主翼の下から自動散布されたMJU-68/Bフレアの赤い閃光が、戦闘空域に反射するのを視界の隅に捉えながら、再び無線を開いた。


「《バンシー1-2、照射は切れた。戻りアークを取る、90左へ》」


僚機が電子的照準を修正する。目標管制レーダーは沈黙していたが、アクティブ・レーダーホーミング(ARH)の脅威はまだ残っていた。


涼は脳内で瞬時に計算する。


「標高差約2,000フィート、敵機接近まで23秒。燃料残量A給油フェーズB──制空時間残り18分、あと1ループ分」


アビオニクスが表示するミサイル警報と、ESM(電波支援装置)が検知する周波数に異変が生じた。敵の目的は制空だけではない。台湾東岸の電波環境を「沈黙させる」ことだ。


「《バンシー1号から海部へ:確認、敵編隊J-16 EW型2機、J-11B 4機。高度28,000、足元320。バリアント交戦開始》」


海部──嘉手納の空域戦闘指揮所。AWACSとともに全空域に指令を飛ばす脳だ。


《承知しました、バンシー。第二波は嘉手納より発進済み。制空時間延長を支援。再準備用CAP(戦闘空中哨戒)任務は11分後に交替予定。》


それを聞いた瞬間、涼の脳裏には、昨日のあの情景が浮かんだ。海岸線、緑の山々、そのふもとに広がる避難所。


この空は、落ちない。


涼はスロットルを微調整しながら、距離130kmの敵機に向けてAN/APG-81 AESAレーダーを絞り込む。マルチモードに移行、火器制御システムは自動で二目標の同時追尾モードへ。


「《AMRAAM二発、リップル発射》」


軽い親指でトリガーを押し込む。機体下部のウェポンベイが静かに開き、AIM-120C-8が連続して滑り出し、音速を超えて空へ飛び立った。敵電子戦機、1機撃破。もう1機にジャマーが停止する。ステルス性能は持続している。


僚機との連携で敵の護衛戦闘機群が分断される。敵は反転。こちらの防空網に深入りすることを恐れたか。しかし、それは「今日の戦いが終わった」という意味ではなかった。


涼は空を見、そして記録した。花蓮の海岸、そしてその奥。仮設の通信陣地。あの場所に、今も野間という記者がいて、地上戦を記録している。


「バンシー1、再編隊。次の波を迎え撃つぞ。……この空は、渡さない」


F-35の翼が、静かに反転した。制空権は、まだ空自の手の中にある。

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