第26章 最初の鼓動
DAY9 15:23 JST
沖縄本島・那覇港臨時整備ドック《大和》艦内機関ブロック室C-2
再起動試験──それは、艦にとっての「鼓動」の確認だった。
機関室の中央、バンク状態に配置されたHGT-4100ガスタービン発電ユニットが、熱を帯びた空気をゆっくりと出力し始めた。
「タービン起動準備。ブレード解放、冷却系統流量良好」
技術1佐・三井敬介が手元の制御端末に目を凝らすと、隣の担当官が小さく声を上げる。
「プラズマ消磁ユニット、スタンバイ完了。KIKYO-Ω、自己診断グリーン」
鋼鉄の奥で、艦内中枢AI・KIKYO-Ωが微細な電磁波を放ち、全系統の初期化と連携を完了させた。メインディスプレイに、作戦の進捗を示すストラテジーが表示される。
【フェーズ1/導入開始】
HGT-4100 回転数:+000800……+012000……
PulseCapバンク:60%充填
EWARフィード:スタンバイ
内部グリッド:Δ=±0.05Hz(許容範囲内)
「……回ったな」
三井の口元が、ほとんど無意識にほころんだ。その瞬間、甲板の下で聞こえる低い共鳴が、整備員の靴底を伝って走る。
「俊一さん……見えますかね」
補機担当の雨宮2尉──かつて佐世保の整備工だった男の孫が、独り言のように呟いていた。
「これ、じいちゃんが作ってた旧砲塔の主軸リング、その加工ノウハウが、パワーノードの防振機構に活かされてるんです。AIの構造推論が、わざわざ再設計したって聞きました」
「聞いてますよ。あれ、いまでは『AMAMIYAスロット』って呼ばれてますから」
三井が微笑む。
「まさか、町工場の削り出し技術が、現代の戦艦に還ってくるとはな」
「戦艦じゃありませんよ、艦隊制御ノード搭載型です」
「おお、それは……長いな」
二人は笑った。
その後、レールガン主電力系統に、初めての起動シーケンスが走った。警告音は鳴らず、チャージラインの各ユニットが、順調に信号を受け続けている。
KIKYO-Ω裁定:稼働中
艦内照明がわずかに揺れる。
「……この感覚、血が通い始めたように感じます」