表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン6

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

710/2681

第25章 雨宮遼太の記憶の中で「追体験」


(これは夢ではない。記憶だ。…そして、それは私の祖父の記憶だ)


「このボルト、アメリカじゃ作れんです」

1950年7月2日 佐世保・旧海軍工廠内(現・米海軍第7海軍兵站部臨時所)



金属と焦げ付いたオイルの匂いが立ちこめる中、1台のM24軽戦車の車台が持ち上げられていた。アレン軍曹が油まみれのハーネスを見つめ、ヘルメットの縁で額の汗を拭う。


マリンズ中尉「ねえ、雨宮さん。トランスミッションの部品がまだ詰まっています。原因が分からない」


石井(通訳)「雨宮さん、中尉が言っています。この間の機械、また動かなくなったそうです」


雨宮俊一は、オイルまみれの手袋を外すと、ゆっくりとフレームを指でなぞった。


「……これ、アメリカの冷間鍛造じゃ無理ばい。内径の精度が甘か。戦車のクラッチなら、こぎゃん0.01ミリでズレても壊れる」


石井(通訳)「彼は、この軸の精度が足りないと言っています。日本では0.01ミリで仕上げるけど、米国の工場はそこまでやっていない、と」


マリンズ中尉は、わずかに眉を上げた。「仕様図が間違っているということですか?」


雨宮俊一は軽く笑った。「絵が悪いんじゃなかと。作る腕が追いついてなかとたい」


彼は続ける。「このボルトの熱処理は、旧呉海軍式でやらんと、すぐ削れるばい。うちで鍛えてしまえばよか」


石井(通訳)「彼は、図面ではなく製造精度が足りないと言ってます。この部品は、旧海軍の基準で作り直せ、と」


マリンズ中尉は沈黙し、しばらく部品を見てから、ぽつりと呟いた。


「私たちは何百台もの戦車を、海を渡って運びました……この仕様で。」


(こんな仕様で、何百台も朝鮮に送ってたのか……)


雨宮俊一は、鉄粉まみれの手でコーヒー缶を取ると、静かに言った。


「おたくらは戦争ばしよる。こちらは、それを支える道具ばい」


「わしらの町工場も、兵隊ですけん」


石井(通訳)「彼は、あなた方が戦争をしている間、こちらはそれを支える道具を作っているんだと。町工場も、兵隊だと」


一瞬の静寂。


マリンズ中尉は静かに頷き、整備中のM24の装甲に手をかけた。


「あなたの道具が釜山で人命を救いました、雨宮さん」


石井(通訳)「釜山で、君たちの工具が命を救った、と言ってます」


雨宮俊一は目を細め、遠い年月を見つめるように答えた。


「命ば救うとなら、そいはよかこつばい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ