第18章 史実からの逸脱(違和感)
DAY? 午前
那覇港臨時補給拠点
問題は、その「記憶」の内容だった。
南條忠が追体験した記憶は、あまりに詳細で現実的だった。
1950年、戦艦《榛名》が朝鮮戦争に参加し、ウラジオストク沖でソ連艦と砲撃戦を展開していた。
1964年、東京オリンピックは火星由来のウイルスによる感染流行で延期された。
1971年、月面都市「MIKASA-BASE」が日米共同で建設され、日本は宇宙開発大国として国際連合の「準常任理事国」に選ばれた。
すべて、史実とは異なっていた。
一方、海自乗員に起きている追体験は、歴史と一致していた。
1950年、朝鮮特需によって造船所が活性化され、雨宮の祖父は再雇用された。
1964年、東京オリンピックでは、外国人ボランティアにおびえていた祖母の姿が心に甦る。
1995年、阪神淡路大震災では、瓦礫の中で真っ直ぐに姪を抱きかかえる祖父の腕の温かさと、瓦礫の恐怖が、まざまざと残っていた。
違うのは、大和の乗員が追体験する記憶は、「史実では存在しなかったもう一つの勝利」だったことだ。しかし、それに気づいた者は、まだ誰もいなかった。
「変だな……俺、子どもの頃、祖父にそんな話を聞いた記憶がないんだが」
雨宮は、違和感を抱きながらも、日々の任務に戻った。彼の心の中に芽生えた、小さな疑問の種は、やがて、日本を取り巻くすべての運命を揺るがす、大きな真実へと繋がっていく。




