第9章 平壌へ
DAY8 12:00 KST
韓国・京畿道・国道1号線(ソウル市北部)
ソウル市街地での死闘は、夜が明けるまでに終結した。南から押し寄せた米韓合同軍は、市街地の北軍を制圧し、ついにソウルを奪還した。街は瓦礫と硝煙に包まれ、勝利の歓声はどこにもなかった。あるのは、ただ静寂と、破壊の跡だけだった。
大友遥人は、その静けさの中で、安堵と疲労を覚えていた。しかし、休む間もなく、米軍は新たな命令を下した。
「全機甲部隊、北方へ。目標、平壌!」
彼を乗せたハンヴィーは、ソウルを背に、北へ向かって走り出した。国道1号線は、すでに巨大な軍事道路と化していた。
彼の目の前には、見渡す限りの装甲車両の列が続いていた。
先頭を行くのは、M1エイブラムス戦車。重い履帯がアスファルトを砕き、その圧倒的な存在感が、道を切り開いていく。その横を、M2ブラッドレー歩兵戦闘車が、歩兵を乗せて追従する。彼らは、ソウルでの白兵戦を生き抜いた精鋭たちだった。上空には、AH-64 アパッチが護衛のために旋回し、そのローター音は、まるで地上の進軍を祝福する勝利の凱歌のように響いていた。
ソウルでの激戦とは異なり、この進軍は驚くほど秩序立っていた。北軍は、ソウルでの敗北によって指揮系統が崩壊したのか、組織的な抵抗を見せていなかった。
彼らは、北朝鮮との国境線である38度線へと近づいていく。周囲の風景は、緑豊かな田園地帯から、徐々に荒涼としたものへと変わっていった。
しかし、その静寂は、大友の心を深く不安にさせた。
(なぜ、こんなに静かなんだ…?)
彼は、スペクトラムアナライザをそっと取り出し、電源を入れた。画面に映し出されたのは、米軍の通信信号と、微かな北軍の無線信号だけ。
平壌へと続く道は、不気味なほどの静寂に包まれていた。だが、この静寂は、嵐の前の静けさに過ぎないことを、大友は知らなかった。