第8章 血と鉄の都市(地下鉄での死闘)
【DAY8 23:20 JST】
ソウル郊外・恩平区地下鉄9号線エリア
夜の闇が、ソウルの街を深く沈黙させていた。しかし、その地下では、別の戦いが始まっていた。北軍は、地下鉄駅を拠点とした巧妙な縦深防衛陣地を構築。交差点にはIEDと即席迫撃砲が仕掛けられ、高所にはPKM機関銃陣地が待ち構えていた。
米韓混合歩兵中隊は、ドローン編隊(UAV-β型)による交差点制圧と、ロボティクス地上車両(UGV)による先行掃討に守られながら、じりじりと前進する。都市戦特有の三次元交戦空間が、彼らを飲み込んでいく。
「通気口B-3より突入。ガス漏れ確認、遮蔽ガス装備完了。熱源検知マスクはなし……いや、移動体あり。複数。」
韓国特殊戦旅団のキム軍曹が、冷徹な声で状況を報告する。彼の声は、無線を通して、米陸軍第二歩兵師団のヘイル中尉に届く。
「OK、フラッシュバン2、突入。確認後、3番小隊は上階確保。追従する。」
ヘイル中尉の指示に、兵士たちが一斉に動き出す。鉄骨とコンクリートが軋む音。都市戦特有の、血なまぐさい心理戦が始まる。階下からは、捕虜となった韓国民間人の存在が、彼らの戦闘を鈍らせる。
薄暗い地下通路に、フラッシュバンの光と音が炸裂した。民間人がいる可能性があるため、手榴弾が使える場面は限られる
「ドォォン!ピカァァ!」
大友の目に映るのは、ただの映像ではなかった。フラッシュバンの閃光が収まると、ヘイル中尉率いる部隊が、通路を走り抜けていく。彼らのヘルメットに搭載されたナイトビジョンは、暗闇を昼間のように照らし出す。
しかし、北軍の待ち伏せは巧妙だった。通路の壁に隠された射撃孔から、PKM機関銃の火線が走る。
「ダダダダダダッ!」
先頭にいた兵士が、胸から血を噴き出して倒れる。彼の後ろにいた兵士が、素早く彼を庇い、反撃の火を放つ。
「クソッ、上からだ!」
通路の天井に隠されていた狙撃手から、再び銃撃が始まる。現実の死の恐怖が、大友遥人の全身を支配する。
「民間人がいる!撃つな!」
キム軍曹が叫ぶ。通路の奥に、怯えた表情で座り込む民間人たちがいた。彼らを盾にする北軍の戦術は、米韓部隊の動きを鈍らせる。
「…これが、戦争の現実だ…」
彼の目に映るのは、人間が人間を殺す、冷酷な現実だった。