第6章 戦場の熱と音
日時: DAY8 03:00 KST
韓国・東豆川市北部・作戦道路
大友遥人を乗せたハンヴィーは、無数の車両が連なる軍用道路を北へ向かって進んでいた。周囲には、M1エイブラムス戦車の重々しいエンジン音と、K21歩兵戦闘車の履帯がアスファルトを砕く音が絶え間なく響いている。この進軍は、ただの行軍ではなかった。それは、まるで巨大な機械が、すべてを薙ぎ倒しながら前進するような、圧倒的な暴力の光景だった。
ハンヴィーの無線からは、絶えず韓国語と英語が飛び交っている。
「第一中隊、前方に敵対戦車陣地を確認!繰り返す、敵対戦車陣地!」
その報告に、大友の体が強張る。前方の戦車が急停止し、道路の先に広がる廃墟となった村に向けて主砲を向けた。
その時、頭上を掠めるように、聞き慣れない音が響いた。大友が空を見上げると、夜空に浮かぶ暗い影、AH-64D アパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターが、低空で村の上空に進入していくのが見えた。機体上部の大きなレドームが、静かに回転を始め、地上の状況をスキャンしている。
「航空支援要請!地点ブラボー、敵対戦車陣地、対空砲あり!」
地上の部隊からの要請を受け、アパッチは目標に向けて機体下部のランチャーからAGM-114 ヘルファイア・ミサイルを発射した。
ヒュウウウウ…ドォォォン!!
ミサイルは正確に村の建物を貫き、内側から爆発を引き起こした。さらに、アパッチは機体下部のM230 チェーンガンを連射し、建物の窓や屋根を掃射していく。
「…これが、空陸連携…」
大友は、その完璧な連携に息をのんだ。地上の部隊が目視できない場所を、空から攻撃し、地上部隊は、アパッチが攻撃した後の残留兵力を制圧する。それは、無駄のない、冷徹な戦術だった。
アパッチの支援によって、地上部隊は前進を再開する。M2ブラッドレー歩兵戦闘車のハッチが開かれ、武装した歩兵たちが飛び出してくる。彼らは、建物から飛び出してくる北軍兵士たちと激しい銃撃戦を繰り広げた。
「パパパパパッ!」
「ダダダダダッ!」
機関銃の乾いた発射音と、小銃の音が入り乱れる。大友はハンヴィーの中から、その光景をファインダー越しに捉えようとした。しかし、レンズに映るのは、ただの光と影、そして火花が散る無秩序な光景だった。
彼は、映画やゲームのように、状況が明確に理解できるわけではない。ここにあるのは、ゲームの銃撃戦ではない。恐怖と興奮、そして生きるか死ぬかの極限の選択が、一瞬一瞬を支配している。
彼の心臓は、激しい興奮と、そして底知れぬ恐怖で、高鳴り続けていた。彼は今、歴史的な大規模作戦の最前線で、その光景を記録しようとしていた。しかし、この戦いは、まだ始まったばかりだった。




