第5章 未知の粒子
DAY7 03:00 CET
スイス・ジュネーブ郊外・CERN
欧州合同原子核研究機関(CERN)の地下深く、巨大な円形トンネルの建設が始まったばかりのFCC(Future Circular Collider)のプロトタイプ検出器が、静かに稼働していた。まだ本格的な実験は行われていないが、将来の宇宙線観測のために、日夜、膨大なデータを収集している。
「…主任、これは一体?」
若い研究員が、興奮した声で主任研究員に呼びかけた。彼が指差すモニターには、これまで観測されたどの粒子とも異なる、奇妙なデータが記録されていた。それは、質量も電荷も不明な、未知の粒子の飛跡だった。
「これは…ありえない。我々のシミュレーションモデルには存在しない粒子だ」
主任研究員は、眉をひそめてデータを凝視した。その粒子のエネルギーは、通常考えられる宇宙線のそれをはるかに超えており、しかも、その飛来方向には、ある特定の規則性が見られた。
「飛来方向をトレースしろ!どこから来ているんだ?」
分析システムが高速で計算を実行する。数秒後、モニターに表示されたその結果に、制御室の誰もが息をのんだ。
「…信じられない。この粒子は…」
軌跡が示すのは、地球の反対側、日本の方向だった。
主任研究員は、即座に日本の研究機関と連絡を取ろうとしたが、現在の国際的な混乱により、通信は極めて不安定だった。彼は、焦燥感に駆られながら思考した。
日本の研究者たちが、独自に開発した「次世代粒子加速器」についての発表なんて聞いたいないぞ
もし日本でこのタイミングで建造されていたとしたら、詳細は軍事機密に触れるためほとんど公開されていないかもしれない
「まさか…日本は、我々が知らない、全く新しい小型加粒子速器を建造したのか?」