第60章 沈黙の都市
DAY5+21時間
台湾・花蓮市旧駅前通り
舗装の消えたアスファルトを、野間遼介のブーツがかすかに鳴らした。夜の街に、爆撃の音はなかった。
街路灯はすべて消え、夜の闇がすべてを覆っている。
「記者だって? 日本の?」
半壊した文具店の奥から現れたのは、現地協力者の若い通訳――**廖**と名乗った男だった。
「外国人は目立ちすぎる。帰った方がいい」
野間は笑いもせず、カメラを静かに抱え直した。
「……この目で見ないと書けません。書きません」
廖は舌打ちした。
「観光客ってのは、どこまで馬鹿なのか、時々わからない」
数時間後、野間は花蓮市内の一角に設けられた花蓮第1民兵団の臨時指揮所にいた。集まっていたのは、元消防士、元教師、退職した空軍整備員――バラバラな背景を持つ市民たちだ。
中でも団長代理の呉麗芳曹長が、野間に言った。
「日本の記者?よく来たわね。私たちは誰に報道されることもなく、ここで“国家””の代わりをしてるの」
「台北が動かない。なら、私たち市民が動くしかない」
呉曹長は、隣に座っていた17歳の青年を撫でながら言った。
野間はさらに、夜間に民兵の案内で山中に展開された花蓮南部郊外の臨時ミサイル基地を取材した。台湾陸軍から譲渡された老朽化したHIMARS車両が、空爆の隙を突いて搬入されていた。
「ここは3日後にはもう存在しない。だけど今夜は、ここから撃つ」
野間は三脚を立て、長時間露光で「をフレームに据えた。