第57章 火線を越えて
DAY5+16時間
台湾東方135km・曳航中の大和護衛戦域
「接近距離、残り1,800!」
ミサイル艇「しらたか」の艦橋に、警報が鳴り響いていた。
「第3波、確認!機数18、内8機が超低空。残りは高度120m前後を直進中!」
CIWSオペレーターの声が張り詰めている。光学センサーには、海面ぎりぎりを疾走するステルス自爆ドローン群が映っていた。
「来たな……あれは完全に自律型AI機体だ。電波誘導はない。こっちを目で見て襲ってくるぞ!」
鷹野3等海佐(「うみたか」艦長)は、火器自動制御から手動照準への切り替えを即断した。
「うみたか、主砲、前方照準角60度。追尾軌道を0.2秒ごとに補正しろ! しらたか、CIWSレーザー、水平90度に注力して射撃。あの海面組を落とせ!」
――バンッ! バンッ! バンッ!
76mm砲が怒涛のように火を吹き、レーダー連動CIWSが精密照射レーザーで前方を薙ぎ払う。海面に黒い閃光が走り、爆発のキノコ雲が立つ。
「撃墜確認、5機——だが残り、まだ接近!」
「ここに来る!接触まで15秒!」
その時だった。低空で回避行動をとった1機が、レーザーの射線を外れて急上昇、次の瞬間――
「右舷甲板、被弾ッ!!」
衝撃が「しらたか」を斜めに揺らす。
「右舷第2区画、装甲に損傷! 外板変形。副燃料タンクからの軽度漏洩あり! CIWS2番機、破損!」
白煙が右舷後方から上がる。
「火災は無し!応急措置班、消火弾頭確認に向かいます!」
艦橋内の乗員は歯を食いしばる。あと1発抜けていれば、このクラスの艇は沈んでいた。まさにギリギリだった。
その直後、曳航中の補給艦「摩周」から、混乱を突いた短波通信が届く。
「こちら摩周。曳航速度を10ノットに維持。大和は警備不能、完全曳航状態。敵ドローン群はすべて沈黙。今のところ追加の波は確認されていない」
「分かりました。こちら、うみたか。しらたかが右舷損傷。現在も航行可能です。防空確保を維持して再展開する」
鷹野の声は落ち着いていたが、手の甲には汗がにじんでいた。
「南東側、残骸漂流。まだ終わってねえ。やるぞ、最後まで――大和はまだ動いてる」
そのころ、大和艦内では……。船底のUUVハッチを破壊され、応急区画では浸水対策班と電源復旧班が交錯していた。
上空の砲声が聞こえなくなるほど、艦内は静かに、しかし緊迫していた。
副砲管制士・長谷川3曹がぼそりと呟いた。
「……護ってもらっているのか、俺たちが護られているのか。わからなくなるな」