第51章 迎撃
DAY5+12時間
MNV-5R改 内部
彼が頼れるのは、手の中で震える操縦桿と、過去数十年にわたり海で培ってきた経験だけだった。
(水流……。わずかに右へ傾いている。奴らは、右舷から回り込もうとしている)
藤谷は、操縦桿を静かに右に傾ける。MNV-5R改は、レーダーもソナーも失ったまま、驚くべき精度で雷鯨の群れを追い詰めていく。
「雷鯨」は、彼らが持つAIのアルゴリズムでは予測できない、不規則な動きに翻弄されていた。藤谷は、急旋回、急加速、急停止を繰り返し、雷鯨の群れに混乱を生じさせる。
「すごい……。AIでは、こんな動きはできません。自己回避プログラムが発動し、衝突を避けてしまう」
「これは、AIが学習できない『不完全性』だ。奴らは、人間の直感的な判断に、対応できていない」
藤谷曹長は、モニターを見つめながら静かに呟いた。
「雷鯨」の群れが、混乱の中で互いの軌道に干渉し始め、一つ、また一つと機能不全に陥っていく。
MNV-5R改 内部
「よし……。あと2機だ」
藤谷は、かすかに笑みを浮かべた。彼の脳裏には、雷鯨の航跡が鮮明に浮かび上がっていた。
最後の2機は、互いに連携して藤谷に襲いかかろうとする。しかし、藤谷は操縦桿を大きく傾け、雷鯨の間に割り込む。
ガツン!
「全機、行動不能を確認!藤谷曹長、やったぞ!」
芹沢の安堵の叫びが、指令室に響く。
「……彼らは、AIを上回った」