第48章 深海の影
DAY5 +12時間後
那覇港から125海里 台湾東方海域
漆黒の夜の海を進む戦艦「大和」は、波音と風のうねり以外、一切の音を立てていなかった。艦橋の若松艦長は、静かにモニターを凝視している。海面にわずかな揺れが生じるたび、それは不気味なノイズとして艦内のセンサーへと送られていた。
「接近警戒ドローン群、展開完了。索敵半径、20海里」
CIC(戦闘指揮所)のオペレーターの声が響く。
「パッシブソナー、異常なし。艦底の熱音響、通常範囲。警戒レベルをB-2に維持します」
しかし、その報告に艦長は安堵の色を見せなかった。
「敵は我々の動きを読んでいる。おそらく、海上からは来ない」
その時だった。
艦内のソナーが、かすかな、しかし異常な信号を捉えた。
「パッシブソナー、微弱な低周波パルスを確認!艦底直下、深度300メートル!」
「識別を急げ!」
オペレーターが懸命に解析を試みる。その信号は、既知のいかなる潜水艦や海洋生物の音紋とも異なっていた。それは、まるで6つの小さな影が、幽霊のように静かに忍び寄る音だった。
「分析完了!6つの航跡パターンを確認!速度は巡航速度の3倍!間違いありません、無人水中ドローンです!」
艦内に警報が鳴り響く。若松艦長は即座に叫んだ。
「CIWS、水中モードに切り替え!UAV出入口ゲートの電磁ロックを最大出力に!」
「CIWS、反応せず!目標が小さすぎる上、超音波レーダーに感応しません!」
「くそっ!」
若松は歯ぎしりをする。敵は、彼らの最も重要な防御手段であるレーダーとCIWSの弱点を突いてきたのだ。
「艦載ドローン、緊急離陸準備!対潜水モードで迎撃せよ!」
通信士が叫んだ。だが、空母の巨大な艦体は、急な回避行動を取るにはあまりに鈍重だった。
「航跡パターン、加速!艦底へ向かっています!」
水中超音波レーダーに映らない、音も立てない敵。それは、まるで大和の弱点をすべて知っているかのように、正確に、そして冷徹に艦底へと向かっていた。
艦の真下から、6つの小さな影は中国の無人水中ドローン**「雷鯨」**だった。