第47章 待ち伏せの海
DAY5+12時間
上海市・東海艦隊第3研究所地下施設
赤く点滅する議事録を上げながら、情報分析官の孫大尉は静かに報告を読み上げていた。
「台湾東方150km、探索セクターG-8にて、大型艦影を再確認。航跡と構造データから判断して、再就役艦『ヤマト』の可能性が最も高い。音響データは未接触だが、過去の戦闘で取得した熱音響データと一致率87%」
部屋の奥で、作戦課長の林上校が頷いた。
「……やっぱり来たか。『あの艦』は、まだ動けるということか」
3週間前、南西諸島周辺で起きた「大和」との短期戦闘。中国側はYJ-18を複数投入したが、いずれも迎撃された。
しかし、その過程で――
「敵ドローンが沈降中、我が海底センサー網に接触。捕獲した1機から回収されたセンサーとアルゴリズムにより、『同調型魚雷制御AI』が再現可能となった」
以後、中国側は独自にUUV型「雷鯨」プロトタイプを開発。今、その実戦展開準備が整っていた。
「目的は明確だ。大和を撃沈することではない。その艦体下部への集中的な水中攻撃によって、奴の機動力を奪う」
孫大尉が、頷きながらホロディスプレイを操作する。
「我々が開発した『雷鯨II型』を、多軸方向から同時投入します。」
林上校の目が、ホロディスプレイに注がれた。
「奴は、その巨大な船体とは裏腹に、多数の無人兵器を運用する**『移動式母艦』**でもある。そこにこそ、奴の弱点がある」
「はい。この撹乱装置は、強力な磁気ノイズを発生させます。ドローンのAI運用能力を無力化し、同時に1000ポンド高性能爆薬で、脆弱な大和の艦底のUUV出入ゲートを破壊し、大和のUUV母艦機能を『物理的に封じる』ことが可能です」
「敵の航行予測領域に、すでに雷鯨II型を展開済み。命令コードを送ればすぐに攻撃に移行可能です」
林上校は数秒黙考した後、静かに告げた。
「実行条件を限定せよ。艦が台湾領海から80海里を超えて進入した場合、雷鯨を作動させよ。
その頃、台湾東方水深450mの暗黒の海底で、無音の6体のUUV「雷鯨」が待機していた。魚雷にも似たその機体は、人類が作った最も静かな軍事兵器として沈底していた。




