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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン5
657/2382

第43章 韓国 沈黙の指令室

DAY5 +6時間

CJTF-K 地下第1指揮統制室(CCOC-B1)


ソウルの地下深くに位置する指揮統制室は、冷たい青い光に満ちていた。壁一面に投影されたホログラムマップには、朝鮮半島の軍事状況がリアルタイムで明滅している。緊張とコーヒーの匂いが混じり合う中、連合軍の最高幹部たちが長机を囲んでいた。


「作戦状況をブリーフします」

J-3の米陸軍大佐が、機械的な声で報告を始めた。

「第820戦車旅団が、昨日20:00時点で開城市街を制圧。予備として確認されていた第17軍団所属の歩兵団が文山方面から鉄原チョルウォンに展開中です」


続いて、J-2の米空軍大佐が顔を上げた。

「我々のSIGINT(通信傍受)により、黄海南道・松林空軍基地からKN-23型準弾道ミサイルの発射準備を確認。TELの移動履歴から、最大6発が1時間以内に射程内に入ると推定されます」


モニターにミサイルのシルエットが浮かび上がると、室内の空気が一段と張り詰めた。

「我々のF-16CM部隊は、前夜から空中待機中。AGM-158 JASSMおよびGBU-39による先制圧を提案します」


アメリカ空軍のジュリア・ウィルコックス少将が、冷静な口調で続けた。

「ただし政治命令により、『非戦略施設への限定攻撃』のみが許可範囲です」

その言葉に、韓国合同参謀本部作戦部長、韓民ス大将が苛立ちを隠さなかった。

「北はすでに軍事目標に留まらず、国内の変電所・交通ハブを狙っている。我々は『手を縛られたままの戦争』をしているのですか?」


韓大将の視線が、冷静な面持ちのリチャード・G・ハント中将(米第8軍司令官)に向けられる。

「大将、ワシントンからの最新の政治指示では、『北の暫定核使用の明確な兆候があるまで、全面報復は控える』という方針に変更はありません」


ハント中将は、ゆっくりと、しかし抑揚のない声で答えた。

「これには、日本側の考え、特に『沈没艦に関する未解決事項』も考慮されています」

その言葉に、誰もが微かに眉をひそめた。


その時、情報部J-2の韓国陸軍准将が、突如として口を開いた。

「これは非公開ながら重大な事項です。4月2日未明、沖縄周辺で米原子力空母ロナルド・レーガンが沈没した件について、日本防衛省が異常な活動を展開しています」


室内にざわめきが広がった。J-2の米側准将が、さらに言葉を重ねる。

「ROV回収映像がリークされ始めています。『原子力空母からの弾頭回収作業』と見られる動きが、日本政府主導で密かに行われている可能性があります。それがB61核弾頭である場合、在韓米軍の戦略核の傘の有効性が問われかねません」


ミサイルの脅威は一瞬で影を潜め、新たな、より深い闇が指令室を覆った。

「我々はすでに自爆型UAVによる非対称奇襲にさらされており、群山クンサン基地には2機の接近が確認されました。空対地攻撃よりも、C-UAS(ドローン迎撃)体制を優先すべきかと」

ウィルコックス少将が現実的な脅威へと話を戻そうとするが、韓国空軍作戦処長の李善浩少将は、その提案を拒絶した。

「必要ならF-35AとKAMDを併用し、我が国側のELINT施設への『不可逆的損害』を考慮して限定攻撃を我々主導で実行できます。米側の政治判断に拘束されるのは適切ではありません」


会議は、米韓間の根深い溝を露呈させていた。

「次の24時間で事態がエスカレーションする可能性は高い」


ハント中将は、ホロディスプレイを指先でなぞった。

「我々は、以下の3点を本日の勧告とする。第一に米側のC-UAS対応を強化。第二に、核関連の今後の活動を引き続きSIGINT/IMINTで監視。そして第三に、沖縄の問題について在日米軍司令部と情報共有し日本側に説明をもとめていく」


会議は09:04に終了した。しかし、誰もが席を立つことはなかった。彼らの思考は、すでに戦場から、遠く離れた沖縄の海へと向けられていた。


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