第39章 那覇沖再び異変
DAY4 +6時間
― NNN報道局・現地支局レポートより
DAY5・午後1時20分 NNN報道局 沖縄支局 特設中継ブース
「……リグの全景、固定カメラから入った。スチール回ってる?」
「回ってる。ここからは遠景中心。映像処理で圧縮する。船名と登録番号はモザイク必須」
東京・汐留の報道フロアから、報道デスクの速水が指示を飛ばす。沖縄支局の中継デスクにいるベテラン記者・島田は小さく舌打ちした。
「モザイクって……あれ、民間登録外だぞ。港湾局のリストにも載ってない。いくら防衛省絡みとはいえ、あのリグは“海上無登録”だ」
「じゃあ余計にアウトだ。映せるわけないだろ」
「官邸報道室から連絡が来てる。『映像使用は自主的判断を含めて抑制』。要は『報道規制』じゃなくて、『慎重』という言葉で潰せってやつだ」
「またそれかよ……」
島田は受話器を置くと、現地カメラ班の浅尾に向けて無線を入れた。
「浅尾、ドローン飛ばすな。航行制限区域に接触したら即アウトだ。それに、周囲の警戒船、海保じゃなくて『防衛装備庁技術研究本部』名義だってさ」
「自衛隊じゃなくて技本……? 民間船で偽装ってことか?」
「たぶんな。潜ってるのは潜水士じゃない。『研究班』って名乗ってたが、どう見ても軍用潜水作業装備だ。ヘルメットも国内製じゃない。あれは西部製だ」
その時、匿名の情報提供者から電話が入った。電話口の声は押し殺されていたが、内容は決定的だった。
「あれは、“リグ”じゃない。海底から、米軍が1950年代に廃棄した『何か』を回収している。自衛隊じゃなくて、アメリカの『退役軍事回収チーム』が入っている。日本側は協力しているが、主導権は米側だ」
「何を回収しているんだ?」
「……核関連。形式上は旧式潜水弾頭の『放射線調査』という建前らしい。だが実際は、なにかを秘匿している」
取材班の視線が一点に集中した。モニターの中、リグの下に影が動いている。ドローンの一台が、まるで水面下に吸い込まれるように消えた。
「……誰か、俺たちに取材させてくれよ。本当に民主国家か?」
島田が無駄に呟くと、速水の声が無線から返ってきた。
「報道の自由は、政府と視聴率の両方に守られている。ギリギリまで攻める。だが、一歩でも踏み越えたら――潰されるぞ。わかってるな」
沈黙の後、島田が静かに応じた。
「わかってますよ。ええ。だから、やるんです」