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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン5
650/2364

第36章  静かなる出撃


DAY3 +16

那覇港


艦橋には、冷え切った空気が張り詰めていた。


「出航3分前。各配置、最終確認願います」


艦長・若松一佐の声は低く抑えられ、それでいて艦全体に張り詰めた緊張を伝えていた。


「機関科より。蒸気ボイラー圧、維持中。ガスタービン出力、25%から段階上昇に移行。駆動波形、正常」


「主電力、チャネル1から3まで通電確認。波形安定。予備電源は内燃型APUよりバックアップ稼働中」


CICからの無線やデータリンク、パッシブレーダー系の報告が次々と入ってくる。この艦に残された「旧式」の機構と、「最新」の電子戦装備。それらが、異なる世代の技術として、ぎこちなくも共存していた。


その重みを背負ってなお、大和は出る。


出撃の目的は明確だった。


台湾・花蓮港を拠点とした邦人および民間人の救出と物資輸送。


中国側は「全面封鎖中」の警告を発し、すでに無人機と電子戦ユニットを同海域に展開している。アメリカ軍も限定的に回収を開始し、現地空港は使用不可能。その周辺には赤いマーカーが点在している。それは、もはや古い制空・制海権を意味するものではなかった。


「灯火管制に切り替わる。遮光板、全区画確認」


「了解。艦外照明、戦時モードへ移行完了」


大型艦である大和の出航は、本来であれば港の一角を完全に明け渡して実施されるものだった。


「タグボート不要。艦尾側スラスターで微調整開始。ピッチ、わずかに3度上げ」


艦内は静けさを保っていた。かつての戦艦のような振動音や蒸気の咆哮はない。新たに追加されたガスタービン補助推進装置が、静かに艦を押し出す。


外では、護衛艦「いせ」と哨戒艦「しまかぜ」がその動きを見守っていたが、護衛にはつかない。


大和は、再び単艦で出る。


「……まるで、昭和20年の出撃みたいだな」


副長の呟きに、艦長は何も言わなかった。


まさか誰も思ってはいなかった。あの沖縄特攻、最後の航海の記憶が、今またこの地でなぞられることになるとは。


いや、今回は違う。死にに行くのではない――生を救いに行くのだ。


「主航路、接続完了。速力8ノットに到達。引き波、通常範囲」


静かに、大和は港外まで滑り出した。


艦首が開けた外洋に向いた瞬間、甲板上では3機の自律UAVが無言で離陸していく。


CICからの通信が入る。


「接近警戒ドローン群、順調に展開。防衛シールド展開は可能。ただし、電力配分は今のところ余裕なし」


この巨大な船には、あの時代からの亡霊が、いまや現代の最前線に立っていた。

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