表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン5
634/2364

第20章 野間再び石垣島へ

DAY1 +16時間

沖縄・那覇軍港 → 石垣島沖合


夜明け前の那覇港には、未明の潮と鉄の匂いが渦巻いていた。巨大な艦影――「大和」は未だ闇に沈んだまま、その輪郭だけが静かに横たわっている。


野間遼介は、艦を背にして岸壁を歩いた。迷彩柄のジャケットの襟を立て、手には防衛省支給の記者認証ホルダー。しかしその首からぶら下がったIDカード以上に、彼の眼差しが軍属であることを雄弁に物語っていた。


「――野間さん、こちらです」


駆け寄ってきたのは、海自第11ミサイル艇隊の黒瀬三尉。彼の後ろには、全長50メートルにも満たない**高速ミサイル艇『はやぶさ型』4番艇〈わかたか〉**が波に揺れていた。


「乗艦確認、出航準備完了です。出発は、あと6分後」


「……急ぐ理由は?」


野間が問いかけると、黒瀬は顔をしかめた。


「石垣島の状況が、また緊迫しているんです。与那国方面の海域で、新型ドローンらしき機影が瞬間的にレーダーに映ったそうで。陸自のレーダーでは捉えどころがない攻撃――中国製、もしかしたらロシア製か」


野間は無言で聞いていた。


ミサイル艇〈わかたか〉艦内

04:18、定刻より2分早く航行した「わかたか」は、最大速力40ノットに迫る勢いで南西へ舵を切った。


ブリッジ内の航法監視モニターには、針路上の宮古海峡の灰色がかった潮流と、点在する島々が赤外線スキャンによる立体画像で表示されている。


「揺れは覚悟してください」


黒瀬が言った。


「この艇は速いんですが……横風には弱い。波のピッチに食われると、バウが空を向くんです。酔い止めは、あちらに」


野間は鼻で笑った。


「大和での爆発を食らった後じゃ、吐く暇も惜しい」


艦尾にて

後部甲板に出た野間は、沖縄本島の灯りが遠ざかるのを見ていた。夜明け前の海は、濃紺から鈍色まで、静かに変幻を始めている。


――石垣島。かつて攻め込まれ、今は反攻前線。


中国の強襲揚陸艦隊からの第一波攻撃で、石垣港は一時機能を停止した。しかし、大和の主砲が放った砲弾が敵の強襲艦を撃沈し、戦況は一変した。


今では、陸自西部方面隊の増援が到着し、対空・対艦防衛網が再構築されつつあった。


波飛沫の向こう、黎明の空に、島影がうっすらと見え始めていた。


到着予告

「着艦まであと30分。石垣港には接岸できないため、上陸は陸自の無人高速輸送船を経由します」


「分かった。あと一つだけ教えてくれ」


「はい?」


野間の目は、まだ視認できない石垣の空を見つめながら、静かに問いかけた。


「……現地の人々は、今何を“守っている”と思っているのですか?」


黒瀬は少し黙ってから、口を開いた。


「たぶん――家族です。そして、その家が建っている『この国』だと思います」


野間は黙って聞いていた。その言葉を胸の奥に沈めるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ