第14章 ソウル渋滞
【汝矣島/国会議事堂周辺】
国会議事堂前の大通りは、すでに政府高官を乗せた装甲車と警察車両の車列によって封鎖されていた。しかし、その足元では多くの市民が地下駐車場から車を出し、京釜高速道路の入口へと殺到する。この時点で、高速道路の北端は完全に機能不全に陥っていた。軍の南下部隊と民間車両が交錯し、全方向へ向けて市民の大移動が発生した。
【瑞草区/江南大路:渋滞】
そこには、現実の厳しい限界があった。
避難命令が出た時点で、江南地域の人口14万人中、約6万人がすでに道路上にいた。車両の増加により、避難路の「20万人/時の南下能力」は完全に限界を迎えていた。車列は微動だにせず、一部の若者たちはE-スクーターや自転車で南下を開始。カカオマップは「徒歩で移動する方が速い」と警告を表示し、スマートフォンのバッテリー残量が消えることを恐れた若者たちが、カフェのコンセントを求めて列をなしていた。
【松坡区/蚕室ロッテワールド前】
屋外モニターには、対平壌中央テレビの放送が中継されていた。金正恩の映像ではなく、代わりに軍参謀部報道官の声明が流れる。
「我が軍は、帝国主義打倒の歴史的正義を貫徹するため、南の傀儡支配層に対する外科手術的攻撃を敢行した」
ロッテワールドモールの周辺ではパニック買いが発生し、食料、医薬品、燃料を求めて数百人が集まっていた。店舗は30分で閉鎖され、出入り口は警察によって封鎖された。
【漢江沿岸/臨時避難場所】
陸軍首都防衛司令部(수방사)が指示し、**臨時避難所(大型ショッピングモール地下、学校体育館、宗教施設など)の開設が始まった。避難した市民の中には、「第1種予備役」や「緊急召集対象者」**として即時再招集を受けた者が多数いた。
※韓国では、18~40歳の男性に召集令状が届く可能性がある。
母親が手を離さなかった少年が、体育館の片隅で泣きながら母に尋ねた。「ここも爆弾でやられるの?」母親は答えられなかった。




