第10章 水中ドローン技術流出
クレーンでゆっくりと甲板に降ろされたAUVは、かつての流線型の美しさとはかけ離れた、ただの鉄の塊だった。それでも、その残骸には、日本の最新技術と、最後の最後まで任務を全うしようとしたAIの意志が宿っているかのようだった。回収された残骸は、その悲劇的な最期を無言で物語っていた。
横須賀の技術研究所に運び込まれた残骸は、直ちに解析チームによって分解された。損傷した外装や内部構造を丹念に調べていく中で、ある異常が発見された。
「AIコアと、新型の多機能ソナーアレイが…ごっそりなくなっています」
解析チームの主任は、顔色を変えて報告した。破断したケーブルや取り付け跡から、それらが爆発の衝撃で失われたのではなく、何者かによって意図的に取り外されたことが判明したのだ。
「そんなはずはない。機体は沈没後すぐに我々のROVが発見した。回収に3時間かかったとはいえ、その間に誰かが…?」
主任の言葉を遮るように、別の研究員が震える声で付け加えた。「大同がHELOを発艦させています。あれはソナー投下のためだけではなかったのかもしれません。HELOには対潜装備だけでなく、小型の水中回収装置も搭載可能です」
その瞬間、誰もが最悪のシナリオを悟った。最新鋭AI自律型大型水中ドローンAUV:が沈んだ後、中国海軍は即座にHELOから回収チームを降下させ、価値の高いコンポーネントを回収していたのではないか。残されたのは、爆弾の衝撃で破壊された外装と、彼らが関心を示さなかった部分だけだったのだ。
日本の最新鋭AI技術が、中国に漏洩してしまった可能性が極めて高い。最新鋭AI自律型大型水中ドローンAUV: の残骸は、もはや単なる悲劇の証拠ではなかった。それは、日本の国家安全保障の機密事項漏洩の重大な脅威を突きつける物証だった。