第9章 水中型AIドローン
東シナ海の波は、いつもより重くのしかかっているように感じられた。尖閣諸島から北東へわずか十数キロ。水深1500メートルの深海に沈んだのは、海上自衛隊の最新鋭AI自律型大型水中ドローンAUV: Autonomous Underwater Vehicleの残骸だった
。海を埋め尽くすような濃い藍色の海面の下で、水中ROV(遠隔操作無人探査機)が、最後の生存信号が途絶えたポイントを慎重に探っていた。
「ROV、AUVの機体を発見。損傷大。右舷推進器付近に被弾痕。魚雷か…いや、形状からして対潜爆弾の可能性が高い」
船内のオペレーションルームに、ROVのオペレーターの声が響く。モニターに映し出された映像は、暗闇に浮かび上がるヤマトの無残な姿を捉えていた。全長12メートルの流線型のボディは、右舷中央部が大きくえぐられ、内部の配線やコンポーネントがむき出しになっている。高圧の水流によって引きちぎられたと思しきソナーアレイが、機体からぶら下がっていた。
AUVのAIが最後に送ってきたデータパケットが、事件の経緯を物語っていた。
20:12:35: 中国海軍の056型コルベット「大同」が探知エリアに侵入。
20:13:02: 大同、HELOを発艦。対潜ソナーを投下。
20:14:11: AUV、聴音欺瞞装置を起動。急速深度変更で回避行動を開始。
20:14:58: 未知の対潜爆弾、至近距離で爆発。AUVの機体センサーに衝撃波を検知。右舷推進器のブレードが破断。
20:15:01: メインリアクター、緊急停止。AIコアに複数のエラー発生。
20:15:05: 機体気密ハッチ、圧力限界を突破。大量の海水が内部に浸入。
20:15:06: AIコアの機能停止直前、最後のデータパケットを母艦へ送信。「AUV、沈む。しかし、任務完了」
沈黙の数秒後、オペレーションルームに艦長の冷静な声が響いた。「AUV回収作業を続行せよ。」
12時間後、最新鋭AI自律型大型水中ドローンAUVは深海の暗闇から引き揚げられた。海面に顔を出したその姿は、まるで深海魚のようだった。海底で付着した泥や砂、そして小さなウニや甲殻類が無数にへばりついていた。損傷した部分は、金属の骨がむき出しになったように痛々しく、先端の探査用レーザーアレイも機能不全を訴えるように無力に垂れ下がっていた。