表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン5
621/2331

第7章 台湾橋頭堡

DAY1 +6時間 


夜明け前の台湾海峡は、夏の湿気をたっぷりと吸い込み、視界を遮るように濃い霧の膜を広げていた。それはまるで、これから始まる戦いの序章を告げるかのように、すべてを曖昧な輪郭の中に閉じ込めていた。


艦内通信に、東部戦区海軍揚陸群司令官、喬海平少将の声が響く。研ぎ澄まされた刃のようなその声は、一切の迷いを許さなかった。「降下準備――ZTD-05、先行せよ」短くも鋭い命令に、艦内の空気が張り詰める。


艦尾のランプが開き、生温かい海水の匂いと焦げ付いた油の匂いが混じり合った空気が流れ込んできた。重量感のあるZTD-05水陸両用戦車が、履帯を軋ませながら緩やかに海面へと滑り出していく。その巨体は、白い水柱を勢いよく蹴り上げ、まるで獰猛な獣が獲物を追うように、暗い海を切り裂いた。ジェット推進が唸りを上げ、水上で時速28キロに達する。霧の向こうに揺れる島影だけが、唯一の標的だった。


艦橋の喬少将は、手元のタブレットで衛星写真と無人偵察機BZK-005のライブ映像を何度も確認していた。敵の沿岸陣地は、数時間前に052D型駆逐艦の対地レーダーで位置を特定済みだ。最初のZTD-05が砂浜に突入した。

履帯が砂を掻き上げ、車体を周囲へと旋回させる。そのすぐ後ろから、ZBD-05歩兵戦闘車から降車した突撃小隊が左右に散開し、QBZ-191自動小銃の制圧射撃を開始した。対する敵の銃火はまだ散発的で、組織的な抵抗は始まっていないようだった。


海上の071型揚陸艦からは次々と車両が下ろされ、第二の波となって砂浜を目指す。無線に「第一波、勝利完了」の報告が入った。その直後、工兵車両GQL-131が上陸し、自走煙発生装置から噴き出す濃い白煙が海岸一帯を瞬く間に覆い隠した。視界が遮断された霧の海峡に、掘削用アームが砂を削るけたたましい音が響く。簡易的なスロープと塹壕が、驚くべき速さで形を成していく。


海面を覆っていた霧は、初夏の日差しによって少しずつ溶け始めていた。その中で、第二波の主力となる072A型戦車揚陸艦が姿を現す。艦首ランプが開くと、ZTZ-96B主力戦車が低い咆哮を上げて姿を現した。艦内の照明が水面に反射し、黒く塗られた砲身が鈍く光を放つ。


喬少将は、再び双眼鏡を覗き込み、遠ざかる霧の向こうに広がる光景を目に焼き付けた。そして、手元のマイクを握りしめ、短く、しかし明確に告げた。「第二波、進め」彼のその声を合図に、橋頭堡構築の次段階が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ