第5章 難民
2026年8月、DAY0 +18時間 防衛省・市ヶ谷庁舎 地下第3会議室
「運用統合調整会議(Joint Operational Coordination Council:JOCC)」と題された非公開協議会は、冷気のような静寂に包まれていた。中央のステンレス製楕円テーブルを囲むのは、日米双方の制服組と政務の高官たちだ。
秋山陸将が静かに会議の火蓋を切った。
「日本海での『そうりゅう』および『ロナルド・レーガン』の消失事件については、日米間で共有された報告に確定、現在、両艦の沈没と推定されております」
ウィリアムズ中将が前へ乗り出した。 「台湾方面では、中国人民解放軍が東沙諸島を制圧。さらに澎湖諸島にも強行上陸を開始している。おまけに、午前0時30分、北朝鮮がソウル近郊へ短距離弾道ミサイル14発を発射。板門店での交戦も報告されている」
クインシー第7艦隊司令官が地図を指す。 「日本は今、東(台湾)、西(朝鮮半島)、)の二面で戦略的圧迫を受けている。
「台湾では、中国海軍が橋頭堡を確立。北朝鮮では、ソウルがミサイルの飽和攻撃を受け、地上戦が始まろうとしている。
「我々は、米軍の台湾防衛を支援する準備があります」 統合幕僚長・秋山陸将が、きっぱりと答える。 「しかし、沖縄、九州の防衛が手薄になる。中国は、その隙を狙って南西諸島に侵攻する可能性が高い」
「その懸念は理解する。だからこそ、我々は日本の支援を望む」 ウィリアムズ中将は、力強く言った。
「しかし、台湾侵攻に対する介入については、すでに日本が大和というかたちで中国と戦端をきっている。我々は、自衛隊が主力となり、中国の主力部隊が台湾に上陸するのを阻止してもらいたい。
米軍は在韓米軍の支援を開始すると同時に、韓国からの難民移送に従事する。日本はまずは対馬に難民受け入れの第一次拠点をつくってもらいたい」
ウィリアムズ中将が、鋭い視線を日本側に投げた。
「ひとつ確認しておきたい。『ロナルド・レーガン』の現状について、あなた方は本当にすべての情報を提供しているのか?」
柴田局長は一瞬口を閉ざし、言葉を選んだ。 「把握している情報は、すべて正直に共有しております。
【会議後:非公開ブリーフ】
会議終了後、村上海将と秋山陸将、情報本部長が別室に移る。
秋山:「……あれがロナルド・レーガンであることに疑いはない」
情報本部長:「海底で『完全に物理的に実体化』しています。
問題は、『なぜ』と『いつ』の二点です」 。