第3章 パラレルワールドのシンクロ
記憶の消滅
1945年9月、ニューメキシコ州ロスアラモス。 人里離れた砂漠の真ん中に、厳重な警備が敷かれた施設があった。ロナルド・レーガンの乗員たちが、タイムスリップ後、アメリカ本土に極秘に移送され、隔離されていた場所だ。彼らは、自分たちが未来から来たことを知っていた。そして、この場所で、彼らは米軍の兵器開発に協力させられていた。
彼らは、この1945年の歴史に大きく介入すると、自分たちがもとの2025年の世界に戻れないかもしれない、という恐怖に怯えていた。そのため、彼らは非協力的な態度を取り、米軍の研究者たちとの間に、深い溝ができていた。
「我々は、君たちの技術を必要としている。協力してくれれば、君たちの未来は保障される」 米軍の将校が、グレイヴス大佐に詰め寄る。 「未来? 我々の未来は、もうない。我々は、歴史の亡霊だ」 グレイヴスは、冷たい目で将校を見返した。
ある日の午後、グレイヴスは突然の頭痛と目眩に襲われた。彼の脳裏から、2025年の記憶が、まるで古いフィルムのように消え始める。 「艦長、一体……」 彼の隣にいた副長が、不安そうな顔で尋ねる。 「分からん……。だが、何かが、俺たちの『記憶』を蝕んでいる……」 グレイヴスの言葉は、途切れ途切れだった。彼の脳裏から、80年前の沖縄沖海戦の記憶が、まるで古いフィルムのように消え始めていた。同時に、彼らが独断で発動した作戦の理由も、曖昧になっていく。
それは、彼らだけでなく、他の乗員たちにも起きていた。 「俺は、何のために、ここにいるんだ……?」 あるパイロットが、自分の所属すら思い出せない、という表情で呟く。 「そうだ……。俺たちは、どこから来たんだ……?」 別の士官も、記憶の欠落に苦しんでいた。
米軍の研究者たちは、この異常な事態に気づく。彼らは、乗員たちがタイムスリップしたという記憶がなくなることにより、単なる記憶喪失者として、米軍の兵器開発に積極的にとり混んでいけることに思い至る。米軍の研究者たちは、記憶喪失の治療と称して、ロナルド・レーガンの乗員たちに、この1945年の世界の偽の個人記憶を巧みに植え付けはじめた。
「彼らは、我々の技術を、自らのものとして、利用しようとしている……」 グレイヴスは、最後の力を振り絞って、USBメモリに、この事実を記録した。 「我々は、ただの記憶喪失者で
はない。歴史の亡霊だ。そして、この歴史を、二度と繰り返してはならない……」
しかし、その記録は、しばらくの間、誰にも発見されることなく、歴史の闇に葬られることになる。 そして、ロナルド・レーガンの乗員たちは、自分たちが未来から来たという記憶を失い、米軍の先進的兵器開発に、積極的に協力していく。
ここから1945年のパラレルワールドと2026年の世界が微妙に交錯し、ねじれ、両世界が予測のできない歴史の波へとシンクロしながらの飲み込まれていくことになるのである。
※ここからは両世界が交互に描かれます