第93章 MH-60Rシーホーク
ロナルド・レーガンの飛行甲板では、MH-60Rシーホークが代わる代わる発艦し、対潜警戒ラインを展開していた。三重のソノブイ網が半径十海里の円を形成し、海面に降ろされたディッピングソナーが円環の要所を押さえる。
艦長グレイヴスは、艦橋の大型モニターを見下ろす。青い海域マップに浮かぶ赤い円——それは彼の想定する「そうりゅう」の潜伏範囲だ。
グレイヴスの眼差しは、過去と現在を重ねていた。八十年前、自分を退かせたのは、そうりゅうの核のブラフだった。だが今回は違う。
指先一つで、半径数キロの海を水蒸気に変える力——こいつをこっちも使える。しかし、それは最後のカードだ。
「撃つなら、一度きりだ。相手も同じだろう」
一方、海中深く——
「そうりゅう」艦長・村上は、前方監視ソナーの波形に目を細めながら、作戦盤上の自艦位置に印を入れた。外周には曳航型デコイを展開し、艦の真の位置を意図的にずらす「ノイズカーテン」」を形成している。
「心配するな。これはまだ、初めの駆け引きだ」
村上の頭の片隅にも、最後の一発があった。核弾頭付きハープン——それを使えば任務は達成されるが、世界情勢は取り返しのつかないことになる。