表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン4
597/2331

第87章 潜水艦「そうりゅう」


日本海域。水深六十五メートルの闇の底で、艦内は夜間行動灯の赤い光に染まっていた。艦体は潮流に溶け込むように静かで、聞こえるのはモーターの低い唸りと、水圧に軋む外殻の微かな声だけだ。


「横須賀総監部より通信要請。アンテナ深度まで浮上します」


航海長の声が、湿った空気を切った。艦長は短く頷き、操舵員に指示を出す。


舵輪がわずかに動き、艦首がそっと海面方向へ向かう。速度はツーノット。ソナー員が注意深く周囲を確認し、「艦影接近なし」と報告。艦はゆるやかに、そして確実に、海の天井まで近づいていく。


「——潜望鏡深度」


深度計の針が十五メートルで安定した瞬間、艦長は「マスト展開」と命令した。


司令塔の奥で油圧音が響き、潜望鏡、通信マスト、ESMマストが順に伸びる。艦長は潜望鏡を覗き込み、夜間光増幅モードで海面を一巡した。波間には、月明かりを遮るものはなかった。


通信員がSATCOM(衛星通信)の回線を確立し、低い声で報告する。「回線確立しました」


数分後、暗号士が一枚の用紙を艦長の机に置いた。紙の端がほんの少し震えていたのは、艦の微かな動きか、あるいはその内容の重さか。


「マストフォール、深度七十メートル。速力三ノット」


再び艦が沈み始め、海の重みが外殻を叩く。赤い光の中で、乗員たちは黙って次の動きに備え、深海の沈黙だけが艦を包んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ