表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン4
596/2382

第86章 宮古島・平良港 大和入港




夜明けの光が港湾の水面に銀色の波紋を広げる頃、水平線の向こうに灰色の巨影が現れた。戦艦「大和」。


艦首にはまだ戦闘の煤が残り、艦橋の塗装の一部には焦げが見える。しかしその姿は、激戦を生き抜いた証として、港の人々の胸に迫った。



岸壁には、すでに数百人の住民と防衛部隊が整列していた。地元の中高生が作った手作りの横断幕には、大きく「ありがとう大和」の文字。陸自第15旅団の隊員たちは、迷彩服の胸元に小さな日の丸ワッペンを縫い付け、敬礼で艦を迎えた。海自のミサイル艇乗員や空自の整備員も、作業服の姿そのままに並び、帽子を高く掲げた。


地元の女性たちは、沖縄特有の花飾りや果物を抱え、漁師たちは漁船の汽笛を長く鳴らした。港全体がざわめきと感動に包まれ、子どもたちの声が風に乗って届く。



大和の巨体がタグボートに導かれ、ゆっくりと岸壁へ寄っていく。艦橋上からは、白い制服に身を包んだ乗員たちが甲板に整列し、港へ向けて一斉に敬礼した。46センチ主砲の砲口は固く閉ざされているが、その下に立つ乗員たちの顔は、昨夜の緊張から解き放たれた安堵と誇りで満ちていた。


「ありがとう!」「おかえり!」


声が重なり、誰かが差し出した小さな国旗が風に揺れる。陸自・海自・空自の現地部隊長が握手を求め、昨日の戦闘の詳細と感謝の言葉が交わされた。



大和の艦橋では、南條艦長と野間遼介がこの光景を静かに見つめていた。


「……信じられません。昨夜、私はこの島が火の海になるのを覚悟していました」南條艦長はそう言って、深く息を吐いた。


「この光景を見れば、あなたの決断が正しかったとわかります」野間はタブレットを握りしめながら答えた。「官邸は、この島と引き換えに外交上の優位を保つことを選ぼうとしていた。ですが、あなたはそれを受け入れなかった」


「政治は『大義』を重んじる。だが、我々は目の前の人々を守るために存在する。それが兵士の『大義』だ」


南條はそう言って、再び港の人々に目を向けた。上空では、空自のF-15が低空パスで祝賀飛行を行い、白煙を引いて旋回している。


その日、大和はただの軍艦ではなく、宮古島を守った「盾」として、人々の心に深く刻まれた。そしてこの光景は、同時に日本全土へと映像で配信されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ