第86章 宮古島・平良港 大和入港
夜明けの光が港湾の水面に銀色の波紋を広げる頃、水平線の向こうに灰色の巨影が現れた。戦艦「大和」。
艦首にはまだ戦闘の煤が残り、艦橋の塗装の一部には焦げが見える。しかしその姿は、激戦を生き抜いた証として、港の人々の胸に迫った。
岸壁には、すでに数百人の住民と防衛部隊が整列していた。地元の中高生が作った手作りの横断幕には、大きく「ありがとう大和」の文字。陸自第15旅団の隊員たちは、迷彩服の胸元に小さな日の丸ワッペンを縫い付け、敬礼で艦を迎えた。海自のミサイル艇乗員や空自の整備員も、作業服の姿そのままに並び、帽子を高く掲げた。
地元の女性たちは、沖縄特有の花飾りや果物を抱え、漁師たちは漁船の汽笛を長く鳴らした。港全体がざわめきと感動に包まれ、子どもたちの声が風に乗って届く。
大和の巨体がタグボートに導かれ、ゆっくりと岸壁へ寄っていく。艦橋上からは、白い制服に身を包んだ乗員たちが甲板に整列し、港へ向けて一斉に敬礼した。46センチ主砲の砲口は固く閉ざされているが、その下に立つ乗員たちの顔は、昨夜の緊張から解き放たれた安堵と誇りで満ちていた。
「ありがとう!」「おかえり!」
声が重なり、誰かが差し出した小さな国旗が風に揺れる。陸自・海自・空自の現地部隊長が握手を求め、昨日の戦闘の詳細と感謝の言葉が交わされた。
大和の艦橋では、南條艦長と野間遼介がこの光景を静かに見つめていた。
「……信じられません。昨夜、私はこの島が火の海になるのを覚悟していました」南條艦長はそう言って、深く息を吐いた。
「この光景を見れば、あなたの決断が正しかったとわかります」野間はタブレットを握りしめながら答えた。「官邸は、この島と引き換えに外交上の優位を保つことを選ぼうとしていた。ですが、あなたはそれを受け入れなかった」
「政治は『大義』を重んじる。だが、我々は目の前の人々を守るために存在する。それが兵士の『大義』だ」
南條はそう言って、再び港の人々に目を向けた。上空では、空自のF-15が低空パスで祝賀飛行を行い、白煙を引いて旋回している。
その日、大和はただの軍艦ではなく、宮古島を守った「盾」として、人々の心に深く刻まれた。そしてこの光景は、同時に日本全土へと映像で配信されていた。