第84章 宮古島防衛戦 — 陸自防衛隊の視点
宮古島南岸・第15旅団防衛陣地
海はまだ朝の青を残していて、空気は妙に乾いて緊張していた。我々は砂州を見下ろす、海岸線から300メートル後方の掩体壕にFH-70榴弾砲を据え、敵揚陸部隊の接近に備えていた。双眼鏡の先、水平線の彼方に巨大な艦影——大和——が霞んで見えた。
無線セグメントが高まり、緊迫した声が届く。「大和、パルスレーザー射撃開始。陸上部隊、空域監視」
数秒後、海上に蒼白い光の線が走った。まるで稲妻が水平に伸びたように見え、その先で空中の黒い点——神風型ドローン——がふっと膨張し、火花を散らしながら海面に落ちた。音は遅れてやって来た。上空をかすめるように別の光線が走り、波打ち際近くの低空を飛ぶドローンが消えていく。
レーザーの閃光が止むと、南西方向の海面に黒い艦列が見えた。護衛艦2隻が前に出て、揚陸艦群がその横に続く形だ。
無線から次の報告が入る。「大和、副砲レールガン射撃開始」
次の瞬間、低い唸りと、遅れてくる空気の振動。水平線の上に白い筋が走り、その先で護衛艦の艦橋付近に炎が噴き上がる。二射目で二番艦の艦尾から黒煙が立ち、列は乱れた。
「監視ドローン発艦、橋頭堡A、位置確定」
リンクで送られてきた映像が、陣地後方の指揮所モニターに映る。砂州に築かれた揚陸用ロープ、野戦砲の掩体壕、積み上げられた弾薬パレットと燃料バルーン——あれが敵の心臓部だ。
「主砲、撃て」
海上の巨艦から、三つの砲口が白炎を吐くのが肉眼で見えた。0.数秒遅れて、床全体が悲鳴を上げたような震動が伝わる。腹の底まで響く重低音、耳鳴りを伴う衝撃波。弾道は見えなかったが、着弾の瞬間ははっきりと分かった。
砂州の向こうに白煙が立ち昇り、それが黒赤の炎に変わって塔のように伸びる。弾薬が連鎖的に爆発し、火線が海岸線を駆け抜け、燃料が一気に炎上した。爆風がこちらの掩体壕にも熱を運んでくる。
橋頭堡Aは完全に沈黙した。敵揚陸艦は減速し、衝突を避けるように旋回を繰り返している。
我々のFH-70は一度も発砲していないのに、海岸線の脅威は消えつつあった。
中隊長が短く言った。「……こりゃ、こっちの出番はなさそうだな」
頭上の空は澄み切り、沖合にはなお灰色の巨艦が構えていた。その一撃一撃が、島全体を守っているのを、全員が肌で感じていた。




