第81章 主砲、発射準備完了
「主砲、発射準備完了」
砲術長の声に、雨宮は深く息を吸い込む。
「……撃て」
号令と同時に、主砲塔内の制御盤が点灯する。「点火、シークエンス開始!」
電子点火装置が作動。かつての黒色火薬の代わりに、改良された単一推進剤が瞬時に気化・燃焼を始める。圧縮されたガスが砲弾の底部を叩き、70トンの砲身を高速で押し出す。
轟音。
艦体を貫くような雷鳴が響き、主砲が火を噴いた。砲口から迸った衝撃波が夜の海を叩き、白い水煙が舞い上がる。三つの巨弾は火球を纏いながら夜空へ向かって加速し、弧を描いて消えていった。
砲弾は発射後、大気圏上層まで上昇する。「GPS誘導、開始。ロケット推進、点火!」
弾体後部のロケットモーターが点火。小さな火炎を吹き出しながら、砲弾はさらに加速し、射程を伸ばす。高度を上げた砲弾は、GPSと慣性航法装置によって正確に目標へ向かって飛翔していく。
「弾着、五秒——」
艦橋のスクリーンに表示されたカウントダウンが、静かに進む。「三、二、一……」
砂州の一角が持ち上がるように白煙を噴き、遅れて黒と赤の爆炎が塔状に伸びた。
ドローン映像に映し出されたのは、弾薬パレットが連鎖的に誘爆し、火線が二十メートル単位で走る光景だった。中継塔の支柱が折れ、仮設アンテナが斜めに崩れる。
「観測良。修正なし、本射——連続装填、撃て!」
連続発射する衝撃が艦体の骨格に重く響く。画面の中の橋頭堡Aの機能はみるみる解体され、搬入路の車列が逆走を始めた。揚陸艦列はさらに速度を落とし、隊形が伸びる。
「敵、船尾甲板からSAMを上げました。低空誘導、こちらへ向かいます!」
「ECM、ノイズバースト。副砲、対空即応。——主砲はB目標へ移行、再装填開始」
ECMが帯域を制圧し、追尾線がふらつく。副砲の一基が即応対空モードに移行、速度を上げる前のSAMの頭を捉えた。そこに主砲の巨弾が第二目標へ到達、燃料バルーンが連なって破裂する。
「橋頭堡A、機能喪失。B、燃焼拡大。敵ミサイルの発射テンポ、完全に停止しました!」
雨宮は決断を短く告げた。「——四十五秒、風下へ退きつつ、再装填と冷却を完了。副砲は反撃火点の芽を摘み続けろ。主砲はC目標」
全員から短く「了解」と返る。艦はまた低く唸り、巨大な意志が海と陸の境を見据え続けた。