第74章 不明弾頭
ソウル首都防衛圏/T+93秒
交戦記録スクリーン上、緑色の迎撃マーカーが次々と消えていく中、二本の赤い軌道だけが残っていた。
「……突破だ」
戦術コンソールの前で、オペレーターが声を絞り出す。軌道解析班が即座に計算を走らせる。「速度・高度ともにKN-23プロファイルに一致。ただし、弾頭質量が基準値より大きい可能性あり」
誰も口には出さなかったが、「核か?」という疑念が一瞬で空気を変えた。
リンク16を通じ、在韓米軍司令部からメッセージが流れる。「弾頭種別判定不能。可能性:核・化学・高性能通常弾頭」さらに、米軍早期警戒衛星の観測班が割り込む。「赤外線放射パターンに異常なし。だが、熱遮蔽コーティングの可能性を排除できない」
首都防衛司令官は、汗をにじませた手で受話器を握りしめた。「……迎撃続行。外れたとしても、市民への警告を維持」
一発はソウル北西端の産業地区へ、もう一発は国会議事堂方面へ直進している。PAC-3は再装填中、M-SAMは射程外。残されたのは、最後の近距離迎撃システムだった。「K-30、交戦!」照準レーダーが白い線を描き、砲口が火を噴く。だが、二本の赤い線は速度を落とさず迫ってくる。
上空数百メートル——一発が空中で白光を放った。破片が雨のように降り注ぎ、ソウル北部の街並みに爆炎が連鎖する。衝撃波が窓を砕き、市街地全体に警報がこだまする。
もう一発は、依然として沈黙のまま降下を続けていた。
その弾頭が何であるか——それを知るのは、着弾の瞬間だけだった。




